インタビュー

シェア奥沢オーナー/多摩美術大学教授 堀内 正弘さん

古民家を活かし居心地いい場づくり 住民主体のデイサービスなど次々に

 自ら取り組んでみると、いろいろな課題もありますが、すばらしい可能性が見えてきました。シェア奥沢には、いろいろな関心事で人が集まります。ここでは、ご近所の方と電車で遠方からお越しになる方が一緒となり、子どもから高齢者まで様々な年齢層の方が参加されます。シェア奥沢での、自由で緩やかな人々の出会いから、いろいろな化学反応が起こっています。例えば、クラシック音楽を楽しむ会の交流会での出会いがあり、常連さんの中から講師をする人が現れ、絵画の会、オペラの会、文章講座といった新しい会が生まれました。

 私は母を自宅で介護しており、それもシェア奥沢を始めたきっかけのひとつです。母も、自宅にいながら様々なプログラムに参加でき、楽しみが増えたと思います。実は、以前から母とはあまり会話がなかったのですが、シェア奥沢を始めてから、共通の話題が持てるようになりました。シェア奥沢は決してお金は儲かりませんが、多くのすばらしい方々にお越しいただき、かけがえのないご縁によるたくさんの喜びをいただいています。

徒歩で通える近所の人たちが集うデイサロン

常連さんの力で住民主体型デイサービス

 週2回、一緒にご飯を作って食べる会から、すばらしい展開がありました。自治体が取り組む地域包括ケアのメニューのひとつ、住民主体型デイサービスとしての「デイサロン」の実施です。全国でも先駈けとなる取り組みで、多くの方が視察に訪れます。これは、先にシェア奥沢での人のつながりがあったからこそ成立しているサービスです。最初は自分の満足のために来ていた人が、他の人の役に立ちたい、ということで、お料理作りやプログラムの提供など、進んで担当してくださっています。

 デイサロンでは、65歳以上の要支援の対象者と、スタッフとして関わる人たちには壁がなく、皆で一緒に楽しい時間を過ごします。要支援の方に作業を手伝っていただくこともあります。徒歩圏の利用者ばかりで、デイサロン以外の日にお互いの家を訪問するなど、地域ならではの自然な交流が生まれています。

産能大学のゼミとコラボで試行した子どもカフェ

男性の地域デビューのきっかけとなる企画も

 子ども連れでお越しになるお母さんも増えており、親子で参加する「子どもカフェ」の試行も始まりました。ワークショップで出た提案から生まれた企画で、この地域のニーズに合わせ、いわゆる子ども食堂とは少し違った切り口で、近くの大学生も加わった面白い展開になりそうです。

 今いちばんの悩みは、女性に比べ、ご近所の高齢の男性の参加率が低いことです。男の台所やものつくり、勉強会のように、テーマがはっきりしている方が参加しやすいと思いますので、これからいろいろと取り組むつもりです。今、庭にピザ釜を作る準備をしていますが、火起こしから始まるイベント性もあり、男性が主役となって多世代の人が集まるきっかけになるかもしれません。

居心地良い場づくりのノウハウを伝えたい

 シェア奥沢では、新しく来た人も「初めて来た感じがしない」と言います。シェア奥沢が目指しているのは、かつてここにあった、ごく当たり前の風景と人のつながりです。初めて出会った人と食卓を囲んで、一緒にご飯を食べる。ご近所の人とのんびりとした時間を一緒に過ごす…。このような習慣が失われてしまった今、皆さんは、それを新鮮に受け止めているようです。

 試行錯誤もあり、このような居心地の良い場づくりのノウハウ、そして個人で無理なく運営するためのノウハウが蓄積されてきました。今後はこのような場づくりを他の場所でも展開していただけるように、そのノウハウを伝えていきたいと思います。

 シェア奥沢は何ですか?と良く聞かれるのですが、説明が難しい。そこで日常性という意味が込められている「えんがわ」というキーワードを使い始めました。このように、多様な世代、立場の人が集う、居心地の良い地域の「えんがわ」が、空き家活用などにより、至る所にできてほしいと思います。

キーワード【えんがわ】

交流の場として開かれた公共空間や個人の家など

名古屋市錦二丁目長者町地区の「まちの縁側」

 まちづくりでは日本家屋の縁側の概念を広げ、公的な領域と私的な領域にまたがる領域を「えんがわ」と呼ぶ。そこには、人と人が出会い、新たな価値が生まれる可能性がある。「まちの縁側」を提唱する延藤安弘さんは、各地域の人々と共に、公共空間などでも人が落ち着ける私的領域を広げようと活動している。それに対し、シェア奥沢では、民家=私的な領域を外に開くことで、新たな価値を生み出した。昔は、子どもが遊びに来るような開放的な民家が多かったが、現代では、門で閉ざされた家が増え、地域の交流が生まれにくい。堀内正弘さんは、地域にさまざまな「えんがわ」を作り、新たな交流の場や居場所(サードプレイス)を増やすことで、コミュニティを復活させることを提唱している。

中日新聞朝刊 平成29年6月16日付掲載

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