インタビュー

東京アーバンパーマカルチャー主宰/共生革命家 ソーヤー 海さん

お金に依存しない文化をつくり出し東京を持続可能な社会に変えていく

 アメリカでの学生時代に平和運動や有機農業などいろんな活動をしていましたが、あまりにも忙し過ぎて、自分自身が持続可能な生活を実践していないことに疑問を感じました。それで、コスタリカのジャングルに移住し、有機農業をしながら暮らし、自分が生態系の一部だということを初めて感じました。その後、世界中から人が集まる、アメリカ・ワシントン州のブロックス・パーマカルチャー・ホームステッドというコミュニティで、生きる技術を徹底的に身に付けました。

 農場は、果物が雨の様に降ってくる豊かな世界でした。お金を使う場所が少ないし、なくても暮らせる。時間も、笑いもあるし、薪も薬草も、必要なものは身の周りにありました。仲間もいっぱいいて、一緒にやりたいことがあれば、声を出せばそこに誰かがいるという世界です。

文化や意識がずれた方向に行っている

 それと比べて、現代社会で、僕たちはなぜ豊かでないか、こんなに苦しんでたいへんなのか、というと、文化や意識の部分で完全にずれた方向に行ってしまっているからだという気がします。物質の問題ではなく。特に、資源を捨てるほど豊かな日本は。

 都会は自由で機会もいっぱいあるけれど、忙しくてお金がどんどんなくなるから、自由や健康、家族との時間と引き換えに、何とかお金を作って、大量に消費して、さらにお金を作るという暮らしにはまってしまいます。でも、都会の人たちが田舎に行くと、しがらみが多すぎて、なかなか受け入れてもらえなかったり、自給自足しようとしても技術や土台がないために数年で挫折してしまったりと、どちらにしても、あまりうれしくない選択肢になってしまっています。

都内で開催されたアーバンパーマカルチャーのワークショップ

巨大なシステムに働きかける冒険

 原発事故後、日本に帰国し、そういう話をいろいろな人から聞き「自分はこんなに楽しく、ジャングルで暮らしていたのに、何が違うんだろう。なぜ日本人はこんなに苦労しているんだろう」と思いました。世界的にとても尊敬されている文化なのに、幸せだけ極められない日本人。それを変えて、平和で豊かな世界で暮らせるようにしたいという思いから、東京アーバンパーマカルチャーの活動を始めました。

 森の暮らしから消費社会に飛び込み、都会の巨大なシステムにどう働きかけるかという冒険を始めたんです。パーマカルチャーというと、畑や建物、エネルギーの循環などハードのデザインが重視されますが、僕は、今、人類が向き合うべき大きな課題は、人間関係やひとり一人の意識の問題だと思って、愛と信頼に基づいて与え合うギフトエコノミー(贈与経済)や非暴力コミュニケーションなどの文化に焦点を当ててきました。

平和道場の古民家では盆踊りで交流も

余裕のある空間で人という土壌育てる

 ギフトエコノミーを実践しながら活動し、「都会から始まる新しい生き方のデザイン Urban Permaculture Guide」という本をみんなでつくり、僕個人の活動からみんなのプロジェクトという世界に踏み込みました。そして、日本中でワークショップをしながら土地を探し、トントン拍子でいすみ市での平和道場のプロジェクトにこぎつけました。そして、古民家の床を張り直したり、ベンチを作ったりというワークショップを開き、いろんな人たちが暮らしに必要なことを学んできました。

 農で一番大切なのは健康な土壌を育むこと。土が悪いと、肥料に依存してずっとエネルギーを注ぎ続けないと命が育ちません。東京アーバンパーマカルチャーの活動で育てているのも、コミュニティという土壌であり、生態系なのです。互いに活かし合う関係性を培い、支え合って、お互いを大事にしながら、お金に依存しない美しい世界をつくることを目指す、生態系のようなコミュニティがあると、常識では考えられないぐらい物事がうまくいくんです。

 余裕のある空間で、東京から来た人たちが癒され、気づき、トレーニングを受ける。そして、東京というシステムの変容に挑み、それぞれの人がいろんな種をまき、巨大な都会に、新しい文化、経済、精神性が生まれていく。それが、僕のビジョンです。

キーワード【ギフトエコノミー(贈与経済)】

優しさをベースにした社会目指し見返りを求めず与え合う世界

ギフトで行っているソーヤー海さんのワークショップの参加者たち

 交換関係から成り立つ市場経済と異なり、与え合いから成り立つ経済をギフトエコノミーと呼び、ポスト資本主義の経済として注目を浴びている。例えば、「カルマキッチン」というレストランは、食事代が前の人に支払われているペイイットフォワード(恩送り)で成り立っている。世界のどの文化にもあるポットラック(持ち寄りご飯)やボランティア活動、赤ちゃんに母乳を与えるのも、ギフトエコノミーと言える。捉え方を変えると、私たちの生活は様々な人や生命のギフトに支えられていて、それなしには資本主義も成り立たない。恐れと奪い合いではなく、優しさと与え合いの世界を育てようとしている若者が、世界中で広めている。

中日新聞朝刊 平成29年5月19日付掲載

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