インタビュー

NPO法人R水素ネットワーク代表 江原 春義さん

 再生可能エネで取り出す「R水素」で送電網に頼らない地域循環型経済を

 私は、化粧品会社を経営していましたが、ブランドが軌道に乗ろうとしていた2002年に会社を売却して、家族とともにアメリカのワシントン州に移住しました。生きる目的を探求したいという衝動に身を任せたのです。そこで、生活している際に、気候変動による数々の痛ましいニュースに衝撃を受け、自分にとってどうなのかではなく、地球全体にとってどうなのかという視点で行動する人生に踏み込んでいきました。そして、2006年、ハワイ島のエコビレッジで生活をしていた時期に、R水素の素案らしきものに出会ったのです。

取り出し方によって2種類に分かれる水素

 R水素のRは、英語の「Renewable」(再生可能)の頭文字です。地球全体への「Responsibility」(責任)、いのちへの「Respect」(敬意)という意味も込めています。

 水素は、取り出し方によって、大きく分けて2種類に分けられます。一つは、再生可能エネルギーによって水から取り出す「R水素」。もう一つは化石燃料から取り出す水素などの「Rでない水素」で、燃料電池自動車や家庭用燃料電池などに今使われているのは、ほとんどがこれです。

 当時、R水素の事例はほとんどありませんでしたが、直感でとても重要なものと感じ、日本に帰って、2009年にR水素ネットワークを設立しました。

 R水素の基本的な仕組みは(1)地域の再生可能エネルギーでつくった電気をそのまま使う(2)余った電気で水を電気分解し、水素と酸素に分ける(3)水素をできるだけコンパクトな状態でタンクなどに貯める(4)使いたいタイミングで燃料電池に水素を入れると、空気中の酸素と反応して、電気と水、そして熱が発生する、というものです。

 水の電気分解と燃料電池は反対の反応で、水と、酸素・水素が循環しており、私たちはこれを「R水素サイクル」と呼んでいます。R水素サイクルには、連続して発電でき、夜間の余った電力でたくさんの水素をつくれる、小水力や波力、温泉・地熱発電などがより適しています。

R水素マシン(白い箱)と、普及に関心を持つ若者たち

大量に貯められるためダイナミックな備蓄も

 地域の再生可能エネルギーでつくるR水素に切り替えれば、遠くの発電所から電気が送られてくる巨大な送電網(グリッド)から切り離した“オフグリッド”も可能になります。エネルギーに費やすお金は、地域で回ることになり、地域循環型の経済を生み出せるのです。 

 水素を貯める技術としては、自動車などに使う高圧タンク、大規模な輸送・貯蔵をするための液化や、水素吸蔵合金などがあります。エネルギーを貯める方法としてはバッテリーもありますが、水素は、劣化や自然放電するバッテリーに比べ長期の備蓄に向いており、軽くて、コンパクトに貯蔵できます。充てんも短時間ででき、何よりもありがたいことに、私たちの身の回りに豊富にあります。

 バッテリーが少量の備蓄に向いているのに対して、水素は少量から大量まで自由がききますから、夏につくった太陽光の電力を冬に使ったり、冬につくった風力の電力を夏に使ったりするようなダイナミックな備蓄も可能になります。R水素サイクルで水素を大量に貯めることができれば、化石燃料の備蓄から転換でき、火力発電所も原子力発電所も必要性が薄れます。

グリフィス大学の1棟まるごと“オフグリッド”のR水素ビル

R水素コミュニティをつくり、国内外に発信

 「R水素はインフラやコストの関係で未来のものだ」とよく言われますが、R水素は未来ではなく、すでにある技術で実現できるのです。

 オーストラリアのグリフィス大学では2014年に、一棟丸ごと電線に頼らない“オフグリッド”のR水素ビルが完成し、6階建てのビルの電力のすべてを太陽光発電と水素エネルギーでまかなっています。他にも、世界各国や日本国内で様々なR水素のプロジェクトが立ち上がっています。

 私たちは、仕事場を共同利用する東京・表参道のシェアオフィスに、小型のR水素マシンを設置していますが、近い将来、原発にも、化石燃料にも、送電線網にも頼らないエネルギーシフトの拠点となる小さなR水素コミュニテイをつくり、エネルギーや食を自給するモデルを国内外に発信していきたいと考えています。

キーワード【R水素】

石炭から石油、天然ガス、水素へ エネルギーの脱炭素化の終着点

 エネルギーの歴史をたどると、石炭から石油へ、天然ガスへと、燃焼すると二酸化炭素となる燃料中の炭素含有量が減り、水素の割合が増えてきていることがわかる。炭素を含まない水素は、こうした脱炭素化の終着点と言える。その中でも、地域の再生可能エネルギーによる水の電気分解などによって取り出されたR水素(再生可能水素)は、エネルギーの地産地消による地域循環型社会づくりのカギとなる。今は割高だが、気候変動による被害、大気汚染による健康への影響、その他様々なコストを加えた化石燃料の「真のコスト」を考慮すれば、見方は変わる。R水素の詳細や事例は、R水素ネットワークのHP、同ネットワーク発行の『R水素』で紹介されている。

中日新聞朝刊 平成29年4月22日付掲載

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