インタビュー

三重県鈴鹿市のアズワンコミュニティ鈴鹿

 ジョン・レノンの名曲Imagine(イマジン)の一節「The world will be as(アズ)one(ワン) (世界は一つになる) 」から名付けたアズワンコミュニティ鈴鹿(三重県鈴鹿市)。理想の世界を歌ったこの歌のように、一人一人がストレスなく働き、お金の心配をせず幸せに暮らせる「やさしい社会」のモデルを、15年の試行錯誤の末に生み出し、注目を集めている。

 アズワンコミュニティ鈴鹿の会社や施設、メンバーの住宅は、本田技研工業の企業城下町である、鈴鹿市の平田町駅南側の市街地に散在している。

社長係はいるけれど社長はいない会社

 その一つ「おふくろさん弁当」のスタッフ、恩田三由紀さんは、穏やかな表情で、人間関係の悩みから解放された職場の居心地の良さをこう語る。

 「弁当を落としたり、材料の発注を間違えたりしたこともありますが、誰も『何やってんだよ』とは言いません。失敗してもいいというのではなく、次にどうしたら失敗しなくなるかを具体的に話し合うんです。みんな楽しく伸び伸びと働いています」

 毎日千食前後の手づくり弁当を配達しているこの会社には、ルールがない。上下関係もなく、みんなフラットな関係で、命令されることもない。対外的な必要から「社長係」はいるが、社長はいない。働き方も自由で、65人ほどがシフトを組み、週一、二回からフルタイムまで、それぞれの都合に合わせて働いている。

生活のためではなく仕事を楽しむ感覚で

 給料は、労働の報酬としてではなく、本人の希望や子どもの人数などの暮らしに応じた額を相談して受け取る。長期で休みたい時の給料なども相談できる。

 鈴鹿店店長係の泉田孝一さんは「無理のない仕組みのため、生活のために働くのではなく、みんな仕事を楽しむ感覚で働いています。お弁当の味にも、働く人たちの気持ちがプラスされていると思いますよ」と、順調に販売が伸びている人気の秘密を語る。

 弁当で使う野菜なども供給しているSUZUKAFARM(スズカファーム)をはじめとするコミュニティの会社や組織は、どこも同様に、ルールも罰則も命令もない、フラットな大家族のような運営をしている。

食料や日用品などをお金を介さず入手できるコミュニティスペースJOY

アジサイの花に囲まれた街のはたけ公園

里山での活動には地域の子どもたちも参加する

お金が足りなければ家族同士で融通し合う

 メンバーが希望すれば、生活全般、何でも相談でき、頼んだり任せたりできるコミュニティオフィスに通帳を預けて、収入や支出を管理してもらうこともできる。家族単位で会計をしているけれど、足りない時にはコミュニティの家族同士で融通し合うので、お金に困ることはないという。

 スタッフの八木祥吾さんは「コミュニティ全体が大きな家族のようなもので、お金が足りなければ使ってよ、という感覚です」と、メンバー同士の親しさを強調する。

 また、コミュニティスペースJOYでは、米や野菜、弁当・惣菜、日用品などを、お金を介さずに、自由に入手できる。外部から入手するものは、メンバーの給料で共同購入している。

 このような仕組みによる安心感をベースに、アズワンコミュニティ鈴鹿では、街のはたけ公園、すずかの里山などでのコミュニティ活動や、人と人、人と社会の関係を学ぶサイエンズスクールなどの学びを通して、一人一人が尊重される社会を創り出す実験を続けている。

人と人の関係研究し新しい社会のモデル

小野 雅司(サイエンズ研究所)

何でも話し合える人間関係を研究してきた小野雅司さん

 学生のころから今の社会の矛盾をどうしたら解決できるかに関心がありました。卒業後にある共同体に身を投じ、16年間活動しましたが、組織の矛盾を感じて脱退し、2001年に何人かの仲間たちと新しいコミュニティを立ち上げました。

 社会の問題を一つ一つなくすより、小さくても人間性に適した新しいモデルをつくることで持続可能な社会の実現に貢献したいと、学生時代から思っていました。また、環境問題を解決する技術は十分にあるのに、人と人の関係がうまくいかないことで、活かされないことが多いとも感じています。

 科学や技術は知恵を使って進歩していますが、人間関係や社会問題になると、とたんに常識やあきらめが支配して、知恵が使われていない感じがします。現代は、こうしなければいけないという縛りや責任の追及がどんどん強くなり、みんな自分を守るのに一生懸命です。サイエンズ研究所では、安心して心の内を出し合って、理解し合い、本当のことを言い合える関係を生み出すにはどうしたらいいかを、研究したりコミュニティで試したりしてきました。成果は、サイエンズスクールを通して、コミュニティのメンバーや一般の人たちに伝えています。

 一人一人が自分らしく生きられることが持続可能な社会のベースとなり、一人一人が能力を発揮し始めれば、コミュニティの活動自体も自然と調和したものになっていくはずです。遠回りに見えますが、結局は、それが持続可能な社会への近道だと思っています。

中日新聞朝刊 平成28年6月22日付掲載

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