インタビュー

岐阜・春日のお茶栽培

 岐阜県揖斐川町の春日地区(旧春日村)では長年、地域ぐるみでお茶の無農薬栽培を続けてきた。高齢化やお茶の需要減による茶農家の減少で耕作放棄地が増える中、在来種が多く残る貴重なお茶畑とその景観を守るために、耕作放棄地の復旧や、新たな収入源としてのお茶の実オイル用の実の採取など、新しい取り組みが始まろうとしている。

 春日地区は、標高300メートルほどの山間の寒冷地。昼夜の温度差も大きく朝霧が発生しやすいため、香りのよいお茶ができる。地域まるごと無農薬栽培というのも大きな特徴だ。しかし、春日茶の収穫は平地のいび茶に比べて1ヵ月ほど遅く、新茶でも値は安い。二番茶以降は採算が合わず、一番茶だけを摘んできた。

 寒冷地のうえに、虫の発生しにくい時期に収穫を終えることが無農薬栽培をしやすい理由になっているが、春日茶の主産地、上ケ流地区の茶生産組合長、佐名敏己さんは「30年くらい前までの一時期、農薬を使用する農家が何軒かありましたが、出荷時期が遅いので、他の生産者と同じことをやっていては対抗できないし、自然と無農薬に戻りました」という。

斜面に独特の模様を描く在来種の茶畑

多く残る在来種の木

 700年以上の栽培の歴史を持つ春日茶のもう一つの特徴は、品種改良していない在来種のお茶の木が多く残ること。在来種は、自然な甘みや香りのよさ、深みのある味などの特徴がある。

 全国的の茶樹の約8割をやぶきた種が占め、生産効率の悪い在来種は、数パーセントを残すのみ。しかし、春日地区では、茶畑が山間の傾斜地にあり、深く根を張る在来種を植え替えるのが難しかったこともあって、半分くらいの茶農家が在来種を残している。

 単一品種であるやぶきた種の茶摘みの時期が短期間に集中するのに対して、在来種は、一本一本遺伝子が異なるため、茶摘みの時期が分散しているという利点がある。ただ、在来種は、農協を通じた流通経路には乗らず、販路開拓が課題だ。

シダで完全に覆われた茶畑(上)を整備するとお茶の木が現れた(下)

守る会が茶畑を整備

 この地域でも、生産者の高齢化、お茶の需要減や値下がりで、耕作放棄地が増え、やぶきた種や在来種の茶畑と、雑草が伸び放題の耕作放棄された茶畑が、隣り合う。耕作放棄地の雑草が周囲に広がれば、地域全体で無農薬を続けることが難しくなりかねない。

 このため、さる3月には、美しい上ケ流茶園を後世に残す会が誕生した。佐名さんは「耕作放棄された茶畑を刈り込んで、野生生物がすめないようにし、茶園復帰が難しいところは、他のものを植え、地域全体で無農薬のお茶栽培を守りたい」と語る。

茶の実オイルを採る茶の実

お茶の実オイルに注目

 耕作放棄の茶畑の活用法として、茶の実オイルの生産も浮上している。名古屋市内で春日茶を販売している山田泰珠さんの紹介で、茶の実オイルを生産販売している株式会社緑門の下山田力さんたちが今月、春日を訪れ、話が一気に進み始めた。茶の実オイルは、オリーブオイル以上のオレイン酸や茶種子サポニンなど、美容、健康によい成分を豊富に含む。お茶の木は、耕作放棄されて弱ってくると、生殖機能がよみがえり、花が咲き、実がなる。

 茶の実生産に適した無農薬の在来種の茶畑が広がる光景を見た下山田さんは「茶の実オイルづくりの最大の拠点になりそう」と興奮気味だ。畑の整備さえできれば、高齢者でも十分作業できるという。茶畑の秋に新しい仕事が生まれそうだ。

お茶を買う人増えれば耕作続ける人も増える

山田 泰珠(オーハッピーデイ)

耕作放棄された茶畑の再生に取り組む山田泰珠さん

 両親が揖斐川町出身で、脱サラして、自然を求めて春日に来るようになったら、お茶との縁が待っていました。3年ほど前のことです。地元の人について茶畑の作業を1年間経験した後、小宮神地域の放置されていた茶畑の面倒を見させてもらっています。最初は、シダで完全に覆われていて「ここは茶畑だったの?」という感じでした。シダは地下茎でつながっていて、抜いても抜いても生えてきます。隣りの雑草の綿毛が風に乗って大量に飛んでくるのを、ぼう然と眺めていたこともあります。けっこう根気のいる作業です。

 無農薬で栽培している在来種の春日茶は「天空の古来茶」というブランドで販売されています。お茶を買ってくれる人が増えれば、「来年もがんばって作ろう」という人が増え、耕作放棄地をこれ以上増やさないですみます。私も、自宅の店舗のほかに、名古屋市の八事山興正寺のマルシェ、フェアトレードのツキイチマルシェなどいろんな場所で出店販売しています。

 この出店先で、耕作放棄茶園を茶の実採取用に再生させた静岡県・牧之原の茶農家、森木和也さんに出会い、茶の実油の存在を知りました。お茶の実に本格的に取り組んでいる農家はまだ日本に数軒しかありません。各地の農家とも協力して、ぜひ新しい産業として育てていきたいと思います。

 茶畑が広がる春日の景観はすばらしく、お茶を手もみする“マイ日本茶”づくりや、草木染め、炭焼きなどの体験プログラムもつくっていくつもりです。まずは、5月に茶摘み体験ツアーをします。お茶づくりに興味を持った人の中から、後継者が生まれたらすばらしいですね。

中日新聞朝刊 平成28年4月30日付掲載

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