インタビュー

気候ネットワーク代表 浅岡 美恵さん

温暖化対策が生活の質を高めると政府が伝えたドイツと大きな差

 京都でCOP3が開かれた1997年ごろには、日本では、まだ大きい自動車がかっこいいと思われていましたが、今は、燃費のいい小型車がいいのは当たり前になりました。珍しかった太陽光発電や風力発電も、今では身近な話になりました。温暖化や、それが人間活動によるものという国民の理解も進みました。

 しかし、温室効果ガス排出削減の国としての方針は、ぐらついてきました。京都議定書の目標も再交渉してゼロに近いものにし、2013年以降の京都議定書の第二約束期間からも抜けてしまい、今は目標のない状態です。

原発に関心が集中し温暖化見えにくく

 福島第一原発の事故後、関心が原発の問題に集中してしまって、温暖化の問題は見えにくくなっています。ベースロード電源として、原発は震災前に近い状態で維持し、二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電所も、電力自由化の下で安い電力としてどんどんつくり、再生可能エネルギーはほんの少し増やすだけ、というのが日本政府や経済界の考え方です。18年前とほとんど変わっていません。

 先日、京都で日独温暖化防止シンポジウムが開催されました。そこでのドイツ連邦政府の環境省の担当者などの話でも、この18年で日本がドイツに大きな差をつけられた理由がはっきりと分かりました。

化石燃料輸入減らし資金を国内投資に

 ドイツや欧州の主な国では、京都議定書を受けて、その後の目標もかなり高く定め、環境税や再生可能エネルギー導入促進のための制度を導入するなどして、社会・経済の仕組みを変えることに、継続して取り組んできました。

 紆余曲折はあって、電力業界などドイツ経済界も最初は抵抗しました。しかし、ドイツ政府は、気温上昇を安全なレベルに抑えるという目標達成には二酸化炭素の大幅削減が必要で、省エネや再生可能エネルギーの導入を進めれば、地域での雇用を生み出せるし、化石燃料の輸入を減らして資金を国内投資に回せる、と国と地域の経済の将来展望を示したのです。

 そして、温暖化対策によって生活の利便性は下がらず、むしろ生活の質が高まることも、率先して国民に説明し、官民挙げて知恵を絞ってきました。そこが、政府も経済界も、温暖化対策は負担になると、不利益ばかり説明する日本との一番大きな違いです。

 ドイツでは今や、再生可能エネルギーは安いエネルギーになりつつあります。再生可能エネルギーの拡大を抑制しようとしている日本と、ドイツとの差は開くばかりです。

温暖化の深刻さの認識足りない日本

 日本でも、省エネや再生可能エネルギーの拡大は、原発の危険を避け、温暖化対策になるという国民的理解は進んではいますが、温暖化の深刻さや対策の重要性に対する認識は、まったく足りません。

 今年7月に76の国・地域で、各地の市民が共通のテーマについて話し合い、投票するという討論型の世論調査「気候変動とエネルギーに関するワールド・ワイド・ヴューズ」が行われました。

 温暖化の影響について、世界全体では79%もの人が「とても心配している」と答えましたが、日本では、「ある程度心配」にとどまる人が50%にも達しました。また、世界全体では、温暖化対策は「生活の質を高める」が66%だったのに対して、日本では「生活の質を脅かす」が60%に上りました。温暖化対策についてマイナスの情報ばかり提供されていることによる、日本人の問題意識への影響がはっきり出ているのです。

気候変動とエネルギーに関するワールド・ワイド・ヴューズより

  1. 気候変動の影響について、日本市民は世界市民と比較すると「とても心配している」という割合が顕著に低い。

  1. 世界市民の多くは先進国を含め気候変動対策により「生活の質が高まる」と認識しているが、日本市民の多くは「生活の質が脅かされる」と認識している。

「間に合ううちに対策を」が合言葉

 世界の気候変動関係者の間では「間に合ううちに対策を」が合言葉になっています。今は、気温の上昇を産業革命前から二度未満に止めるために、対策がなんとか間に合うギリギリ最後の時期なのです。対策を将来世代に委ねることはできません。COP21で、そのために継続的に取り組む新しい法的枠組みができることは、世界の温暖化対策にとっても、日本の温暖化対策にとっても、とても重要です。日本政府には、合意実現に前向きに対応してほしいと思います。

中日新聞朝刊 平成27年11月25日付掲載

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