インタビュー

愛知学院大学経済学部専任講師 関根 佳恵さん

大規模経営から家族農業推進へ 世界に広がるアグロエコロジー

 昨年は、国連が定めた国際家族農業年でした。日本ではあまり報道されませんでしたが、世界的には2010年くらいから、家族農業への関心が高まってきています。きっかけは、2008年の世界的な食料危機でした。干ばつや洪水などの異常気象や、トウモロコシ、大豆などへのバイオ燃料としての需要増加などが指摘されていますが、危機は一過性ではなく、貧困や飢餓を削減する国際社会の目標達成が困難になってきた、という認識が広がりました。

新自由主義的な農業政策に否定的

 1980年代から30年ほど、規模拡大、輸出志向、単一栽培などの新自由主義的な農業政策によって、所得が上がり、農村の貧困がなくなると言われてきました。しかし、実際には、農薬や化学肥料、農業機械、種子を購入するために借金漬けとなり、途上国では、担保の土地を取られて、多くの農民が農業をやめなければなりませんでした。単一栽培のため、主食のコメなどを買っている農民が、国際価格の高騰で食料を買えず、飢餓に陥るケースも多発しました。

 国際的な流れは、輸出志向型の特定産物に特化した農業や、国際市場に大きく左右される農業に、否定的になってきています。大規模な地下水くみ上げによる塩害や地盤沈下、川の流れがなくなる断流など様々な問題が起こる中、新自由主義的な農業政策では遅れた形態と思われてきた家族経営や小規模経営が、実は持続可能な農業の一番すぐれたモデルだったと言われるようになってきたのです。

森の中で無農薬栽培されるフィリピンのバランゴンバナナ

雇用も生物多様性も守れる家族農業

 たとえば、ブラジルで100ヘクタールの農場で雇用できる人数はたった2人です。家族経営なら、多種多様なものが作れ、何人も家族を養えます。生物多様性も守れるのです。そういう意味で、アグリ(農業)ビジネスによる食や農の支配に対して、環境、社会の両面で持続可能な農業、食料生産のあり方を求めるアグロエコロジーが注目されています。

 どういう社会を創っていくのか、自然環境とどう調和して生きていくのか、と考えたとき、利潤を追求する資本の論理と、人間の生活の論理は必ずしも一致しません。資本の論理で食料、農業のあり方を決めていくと、人間や環境が破壊されてしまいます。農業を意味するアグロと生態系を意味するエコロジーをつなげたアグロエコロジーは、自然環境に即した農業を追及するだけでなく、資本の論理による農業の工業化に異議を唱え、社会全体の180度のパラダイム(認識の枠組み)転換を目指す幅広い運動です。

国連機関が相次ぎ推進のレポート

 2010年に、国連でアグロエコロジー推進の提言があり、2013年には、国連食糧農業機関(FAO)が、新自由主義的な農業政策に異を唱えてきた「ビアキャンペシーナ(農民の道)」という農民組織と連携してアグロエコロジー推進を打ち出し、国連貿易開発会議(UNCTAD)も「手遅れになる前に目覚めよ」というタイトルのレポートで、アグロエコロジーへの転換を勧告しました。

 家族農業が大事というのは途上国の話で先進国は例外、と誤解されることがありますが、フランスで2014年にアグロエコロジーを推進する農業未来法が成立し、EUも家族農業がEU農業のモデルであるという声明を発表するなど、農業の工業化に反対する方向に、先進国でも追い風が吹いています。

バランゴンバナナにはミミズ堆肥を発酵させて施肥する

途上国の80年代農業政策と同じ日本

 1960年代末から始まった生産者と消費者の「産消提携」が、「TEIKEI」と書かれて世界で使われ、アメリカやフランスなどの取り組みのモデルになるなど、実は、日本はこの分野で進んだ国でした。日本政府は、もう少し国際社会の動きに敏感になって、農業政策を転換するべきです。TPPに耐えられる農業を目指した、輸出志向、大規模化による効率化などは、1980年代の途上国と同じ、旧態依然の農業政策です。TPPの影響で取り返しのつかない事態になって、食料自給率もさらに下がってようやく気づくのかもしれませんが、時すでに遅しとなる危険性は高いのです。

中日新聞朝刊 平成27年8月27日付掲載

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