インタビュー

愛・地球博開幕10周年記念 LOVEARTH特別号歌手 森山 良子さん

愛・地球博が伝えた“人間”の叡智で平和な善き社会を目指してほしい

 愛・地球博の開催される前の年に、開会式の歌を作るように依頼されていましたが、テーマが大きすぎて、なかなか書けずにいました。息子の直太朗の高校サッカー部の一年後輩で、うちによく来ていた作詞家の御徒町凧(かいと)君にお願いしたら、人間と母なる大地や宇宙とのつながりを表現したすごく世界観の大きい詞ができてきました。メロディーは私が作ろうと思っていましたが、世界観が大きく私の中でなかなかまとまらなかったんです。

愛知万博開幕式で開会式公式ソング「マザーアース」を歌う森山氏

普通に歌う曲と違う歌いがいのある大作

 2005年のお正月に直太朗が実家に来た時に「できた?」と聞かれ、「この詞に負けないような歌をって思うプレッシャーで、なかなか作れないの」と言ったら、詞を見ながら「おれ作れる。ほとんどできてるよ」ということになり、それで「作って」と渡したら、翌々日に、歌が届きました。レコーディングでは私の曲のここを歌う時のように歌ってほしい、というような具体的な指示があり、私の歌い方の特徴を生かした曲でした。直太朗と御徒町君の長い付き合いの中で生まれたコンビネーションの良さを感じましたね。

 親子でのレコーディングはこれ一曲ですが、ダメ出しがすごくて、若い直太朗と御徒町君が「違う、こうだよ」と、けんけんがくがく、私に言ってくるので、それがすごくおもしろかったですね。私自身も、「詩のここを直して」と注文したりして、いろいろやりとりしながらできあがった曲です。

 この曲は、いつでも歌える歌ではないですね。自分の持てる力を高めていって、そこの中でポンとようやく歌える曲です。気を入れて頭から最後まで歌い尽くす、歌いがいのある大作で、自作の曲のように普通に歌える曲とは、歌い切るまでの覚悟にかなり落差があります。

いのちの大切さ伝える歌詞受け取ってほしい

 開会式では、自分の最高のパフォーマンスを発揮して、大きなテーマを掲げた愛・地球博のスタートにふさわしい歌唱にし、いのちの大切さを伝える歌詞の一つひとつを皆さんに受け取ってほしい、という思いで歌いました。

 愛・地球博では、開会式以外にも何回かコンサートをさせていただきました。コンサートのスケジュールが追加で入ると「うれしい! また行ける」と思っていました。国際的な博覧会ということで、高揚した気持ちの大勢のお客さんが盛り上がり、私も盛り上がって、オリンピックと同じような空気感があったと思います。

 開会式で歌わせてもらって、私たちのように戦争を知らずに育った歌手が、メッセージを発信する大切さを、改めて感じました。私にとって大きな転機になったのは、「さとうきび畑」との出会いでした。

メッセージを発信することの大切さを実感

 20歳くらいのころに、70年前の第二次世界大戦末期の沖縄地上戦をテーマにしたこの曲をレコーディングしたものの、戦後っ子としてのほほんと育った私は、「ざわわ ざわわ」というフレーズを64回も繰り返す11分もの曲を、技術的にも精神的にも歌いきれず、歌うのをためらっていました。

 湾岸戦争が始まったころ、愛の歌ばかり歌っているコンサートに来ていた母に「世の中がこうなってる時に、愛だ恋だと歌ってるなんて、ちゃんちゃらおかしい。あなたには歌うべき歌があるじゃないの」と言われたんです。すぐにさとうきび畑のことを言っているのだと分かり、次のコンサートからは絶対に歌うと決めたら、曲がすうっと体に入ってきました。

 メッセージを発信することの大切さを実感したことといえば、「涙そうそう」にも忘れられない思い出があります。

 BEGINが作ってくれた曲のタイトルの意味が、涙がポロポロこぼれることだと聞いて、急性心不全で亡くなった兄を思い出し、一気に歌詞を書きました。その後、夏川りみさんが歌って大ヒットして、いろんな方からお便りをいただきました。「私も愛する人を失った」「戦争で亡くなった人のことを今も思っている」沢山の皆さんからの悲しみのお便りに苦しく切ない思いをしているのは私だけではないことが、よく分かりました。

 BEGINからは「沖縄のおばあが、初めて泣いているよ」と言われました。沖縄の人たちは、本当につらい目に遭ったので、涙なんか流さないで、みんな明るくて、ニコニコしている。ある時、沖縄で、集まってきたおじいやおばあの前で「涙そうそう」を歌ったら、みんな踊りだしました。みんな踊りながら、おいおい涙を流しているんです。どれほどつらい人生を笑顔で乗り越えてきたのかと思い、胸に染みました。

愛・地球博が掲げた理想を忘れないで

 愛・地球博は、「自然の叡智」がテーマでしたが、人間の叡智をもっと掘り起こして、この地球に住むみんなが、もっと環境や人にやさしく接していこうという、人類の理想が掲げられた場所だったと思います。人間が持っている叡智を活かして、もっと善きことの方に向かって歩いていくことを約束する、すごく大きな意義のある万博だというイメージが、私の中にはとても強くありました。

 私自身、人間は、善いことを目標にして、もっと進化していくものだと思っていましたが、必ずしもそうではない面もあります。愛・地球博が掲げた理想をお互いに忘れないで生きていきたいですね。開幕10周年イベントで、久しぶりに歌わせてもらいますが、そんな思いも込めて、さらにパワーアップして歌いたいと思っています。

中日新聞朝刊 平成27年3月13日付掲載

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