インタビュー

国際協力NGOセンター理事長 大橋 正明さん

持続可能な社会目指す目標づくり 日本は率先して責任を果たすべき

 1990年に比べて2015年の貧困人口を半減させるなどの目標を掲げたミレニアム開発目標(MDGs)には、非常に大きな意義がありました。

 80年代、90年代には、アフリカや南米の国々で、累積債務問題への対応策として、学校や公共交通などへの補助金を削減する「構造調整政策」が取られました。それによって貧困が悪化し、構造調整への批判が高まる中、東西冷戦が終わり、人間を中心とした開発援助をしようという声が上がってきたのです。90年には、国連開発計画(UNDP)が人間開発という言葉を作りました。それまでは基本的に開発イコール経済開発だったのです。

 そして、90年代に連続して開かれた環境、女性、社会開発などをテーマにした国連の会議の成果と、新しいミレニアム(千年紀)を記念して開かれた国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を統合してMDGsが生まれました。

世界の貧困人口の半減が最大の目標

 MDGsでは、世界の貧困人口を半減することが最大の目標となりました。8つの目標として、貧困削減と飢餓の撲滅の他に、教育、ジェンダーの平等などの目標が掲げられましたが、環境系の目標はあまりなくて、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズやマラリアなどの蔓延阻止といった保健関係の目標が多いのが特徴でした。所得、教育、寿命などの人間開発指標で多角的に貧困を測るようになったんですが、人権、障害者の視点も重視してほしかったですね。

 MDGsにはいろんな問題はありますが、経済成長が大事で、成長すれば貧困層にもおこぼれの利益が行くというそれまでの考え方から、開発が直接、貧困層に向かうように、きちんと頭を切り替えるのに、とても役に立ちました。

目標は達成したが貧富の格差は開く

 貧困人口を半分以下にするという目標も達成できました。ただ、それは中国の貧困層が減ったからで、インドやサハラ以南のアフリカを中心に飢餓人口は8億人以上に上りますし、貧富の格差は世界中で開いてしまいました。

 新しい世界の目標として今年9月の国連総会で決まる持続可能な開発目標(SDGs)には、格差の縮小が入っています。中国の少数民族や日本の母子家庭などの貧困は依然として残っており、国全体の統計では見えない格差の解消に向けた国内不平等の是正も盛り込まれます。

先進国を含めた持続可能な開発が目標に

 MDGsは、先進国と国連官僚が主導してトップダウンで作られました。その後の目標も、同じように作られようとしていましたが、国連環境開発会議(地球サミット)から20年となる2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連持続可能な開発会議(リオ+二〇)で、途上国からSDGsの提案があり、その後、実質的にSDGsがMDGsに代わる目標になりました。

 MDGsは途上国中心の目標で、先進国は援助していればよかったのに対して、SDGsは、すべての国を対象に維持可能な開発を目標にしています。また、SDGsでは、「安価かつ持続可能で信頼できるエネルギーサービスへのアクセスの確保」「持続可能な産業化の促進」など環境問題が全面的に出てきます。

 私たち国際協力NGOセンターは、これまで先進国政府が行ってきた援助の約束を継続し、MDGsでできなかったことを必ずやりきることや、人権に基づくアプローチなどを求めています。市民社会との対話も不可欠です。

日本政府はあくまで成長を追い求める

 SDGsの作成にあたっては、2つの大きな論点があります。

 その一つは、持続可能な開発と消費です。資源を食いつぶしてきた先進国が、今の生産と消費のパターンは持続可能ではないから生活を変えるようにと、地球社会から突きつけられるのが、SDGsなんですよ。でも、日本政府が間もなく発表する開発協力大綱で、サステナブル・ディベロップメント(持続可能な開発)ではなく、サステナブル・グロウス(持続可能な成長)という言葉を使うなど、あくまで成長を追い求めようとしています。

 もう一つ論争になっているのは、「共通だが差異ある責任」という考え方についてです。今一番CO2を出しているのは中国ですが、歴史的に見るとヨーロッパやアメリカが大量に排出してきています。過去に蓄積された数字で比べるべきで、途上国に対する規制は先進国に比べて緩やかでいいはず、という主張が議論になっています。これは容易に受け入れられないというのが、残念ながら日本政府の立場です。

ニューヨークで開催された国連総会サイドイベントで発言する大橋氏

今こそ理想主義掲げ新興国に手本示そう

 MDGsでは、政府開発援助(ODA)を国内総所得(GNI)比0.7%にするという目標を掲げていましたが、日本は2013年時点で0.23%にとどまっています。世界的に景気が悪くなって、日本でもODAよりも景気対策をという声が強くなっていますが、私は、日本が経済大国でいられるのは、世界と貿易しているからで、私たちが援助をしたり生産や消費を切り詰めていったりするのは、家計をやりくりして所得税を払うようなものだと思うんです。もし世界政府があったら、所得の高い国から所得税を取るのは当たり前ですよね。

 日本が率先して責任を果たし、中国やインドなどの新興国にお手本を示すことがとても大切なんです。私たちNGOは世界の人々の共生という理想主義を掲げています。私が長く住んでいたバングラデシュのような激しい雨が日本でも降るようになるなど、地球温暖化が深刻化し、異常気象が多発していることを考えれば、今こそ理想主義を追求すべきだと思います。例えば、温暖化で海水面が上がってバングラデシュが水没すれば、日本にも難民が押し寄せますし、日本でも海辺の土地が水没するのです。今、先頭を切ってがんばらなければ、結局は日本の国益をそこねるというのが、私からの一番のメッセージです。

中日新聞朝刊 平成27年1月21日付掲載

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