インタビュー

Zユネスコ教育局ESD課広報促進スペシャリスト 斎藤 珠里さん

強力なパートナーシップの構築を目指してESDを発信し続けます

新聞記者の経験を活かしユネスコへ

 20歳から10年間、アメリカで過ごし、最後の4年はテレビ局の仕事をしていました。その後、日本に戻って16年間、新聞記者をしました。選択定年制があったので、海外で暮らすことが自分を育てるという思いから、思い切ってパリに行ったんです。ユネスコの面接を受けて通っていましたが、ポストが空かず何年も仕事に就けませんでした。そこで、会う人ごとに「ユネスコに勤めたいんだけど、知っている人いない?」と声をかけ、当時、ユネスコ事務局長だった松浦晃一郎さんを紹介してもらうことができました。「仕事とセックスのあいだ」という、ちょっときわどいタイトルで新書を出していたのですが、「扱いが難しいテーマを、普遍的な社会問題として世に問うのは技術が要る。ユネスコのやっていることは、世界遺産以外は分かりにくくて、難しいレポートはだれも読まない。こういう人を広報に置けばユネスコの活動がもっと知られるようになるはず」と強く押してもらうことができ、最初は短期契約でしたが、ユネスコに入れたんです。

ESDの現場を見た記者が積極的に発信

 最初は広報を担当していましたが、ESDを浸透させるにはマスコミの力が必要ということで、メディア勤務の経験を買われて2年前からESDのセクションに移りました。そして、世界のメディアにESDを知ってもらうことから始めました。アフリカや南米などの、ESDに関心を持つ余裕がないくらいの国の記者10人を、ユネスコの本部があるフランスに招いて、ユネスコスクールとしてESDを積極的に取り入れている学校やESD的な取り組みをしている企業を見てもらいました。

 その記者たちは、国に戻ってどんどんESDの記事を書いてくれました。今回の会議にも来てもらいましたが、皆さん、積極的に参加者に接触し、連日、インタビューや会合での取材記事を会議場から発信してくれました。

次世代のジャーナリストの卵「学生取材班」との集合写真

学生取材班が拾った世界の若者の言葉

 次世代のジャーナリストを育てようと、ジャーナリズムやコミュニケーションを学ぶ学生たち11人による「あいち・なごやNEWS ユースの視点」という取材班も設けました。日本語の記事は早稲田大学大学院のジャーナリズムスクール生、英文記事は環境問題をテーマにしたエッセイコンテストで選ばれた海外の若者たち、ビデオ映像は中部大生がそれぞれ担当しました。ジャーナリストの卵たちが特に興味を持ったのは、世界中から集まった次世代のESDを担うユース52人でした。

 取材にあたった早稲田大学大学院生のひとり、村上友里さんは「若者の意思を反映させた政策をつくるために、もっと世代間の協力が必要」(バーレーン代表)や「それぞれの地域の環境に応じて、異なる解決方法を持ってもいい。資源を守るという最終的な目標は同じだから」(ナイジェリア代表)など、ユースの声を拾い、原稿に「同世代の若者たちの言葉を聞き、私自身も当事者なのだということを痛感しました」と、自分の考えも記していました。

会議の規模や内容に予想以上の手応え

 私自身、会議に予想以上の手応えを感じた、というのが本音です。

 まず、ユネスコに加盟する約200の国・地域のうち150カ国・地域から閣僚級76人やNGO、教育関係者を含む1000人以上が参加した、その規模。そして、3日間の会期中、多くのサイドイベントやワークショップが開かれ、ESDを推進するための画期的な計画が発表されたことです。また、これらは、会議参加者にとって大きな刺激になったと思います。

 画期的な計画の一つとして例を挙げると、サイドイベントで国連環境計画(UNEP)が発表した「持続可能なライフスタイルと教育プログラムの開始」があります。既存の教育の枠組みを超えた形で個人個人に消費行動の見直しを促すことを目的として、各家庭のCO2排出量が地球環境に与える影響を調べるツールの開発や、学校や地域、職場で消費行動を見直すプログラム導入などを対象としています。主要な財源は日本政府の温暖化対策税で、2014年の拠出予算はおよそ250万ドルです。このサイドイベントには開発途上国からの参加も多く、既存の教育の枠を超えた環境改善へのアプローチには、地域格差を超えた反響があることを印象づけていました。

11月に名古屋で開催されたESDユネスコ世界会議で各国のメディアの方々と

10年の成果を活かし新プログラム「GAP」

 今回の会議を以てESDの10年が終わり、次のステップとして、「グローバル・アクション・プログラム」(GAP)が立ち上がりました。GAPは、ユネスコが昨秋採択し、先月には国連総会でも採択された15年以降のESD行動指針で、その実施方針が会議で発表されました。

 ESDの持つ潜在的な可能性を開花させることを目指し、優先行動分野として▽政策的支援▽教育・トレーニングの場に持続可能性の概念を取り入れる▽教員やトレーナーの能力向上―など5つを掲げています。その中には、ユースの役割や、コミュニティ・レベルのESDプログラムづくりなども入っています。ESDを教育者だけに任せておくのではなく、地域ぐるみの活動や、企業の支援など強力なパートナーシップを構築していくことが重要なのです。

 世界の企業、公共団体などから、どうGAP実施に貢献できるか具体的な行動計画を募ったところ、300以上のコミットメント(約束)が寄せられました。また、今回の会議で発表されたESDの10年を振り返る報告書では、回答した70ヵ国のうちの三分の二が国家戦略または国家政策の中にESDを位置付けていることが紹介されました。こうした10年の成果を活かしてESDをどう発信していくかがこれからの課題です。

 今回の会議が世界各地のメディアで取り上げられた成果を踏まえ、一人でも多くの記者を取り込み、一本でも多くのESD記事が掲載されるようにすることが、メディア畑出身の私の使命です。明日からまた、手をかえ品をかえてESDの種まきをしていきます。

中日新聞朝刊 平成26年12月10日付掲載

一覧に戻る

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ