インタビュー

EYE WITNESS 動物写真家 小原玲さん 前川貴行さん

野生動物の姿伝える写真に地球からのメッセージ感じて

 動物や自然のすばらしさを伝える写真家集団「EYE WITNESS」の小原玲さんと前川貴行さんに、動物写真との出会いや取材を通じて感じていることなどについて聞きました。

写真を撮る喜び 未知との遭遇

小原  紛争地などの取材をする報道写真家の仕事がつらくなっていたころに、たまたまアザラシの赤ちゃんに出会いました。感動した喜びをそのまま人に伝えられるうれしさに、写真を撮る喜びを再び思い出し、動物写真家になったんです。
前川  僕はエンジニアの仕事をしていましたが、自然の中に入るのが好きになり、家にあった一眼レフカメラで写真を撮り始めました。そのころ、東北の山中のうっそうとしたけもの道で、でっかい角を持ったオス鹿に出会い、未知のものと遭遇した驚き、恐怖、興奮を感じ、動物と会うのってすごくおもしろいと思ったんです。
 今でも、強い動物を撮る時には、命の危険を感じることはありますが、これくらいの距離なら大丈夫とか、動物の雰囲気を見てそんなに危ない状態じゃないなとか、自分の感覚で感じながら撮っています。自分の中の本能が呼びさまされて、どう接しようか考えるという感じです。

深刻な影響受ける極北の動物たち

小原  僕はアザラシを23年、ホタルを15年と、一つの動物をずっと撮ってきました。アザラシを撮り始めたころの流氷はとても厚く、氷の上にテントを張って滞在できるほどでしたが、今の氷はとても薄く、流されたり溶けたりしてしまい、テントは立てられません。アザラシの赤ちゃんは大きな流氷の上で育ちながら、ゆっくりと泳ぎを覚えていくのですが、今のボロボロの氷ではおぼれてしまったり母親とはぐれたりして、2、3年に一回、数十万頭単位で死んでいる可能性が高いと見られています。これはアザラシだけの問題ではなく、アザラシをエサにしているホッキョクグマへの影響は深刻です。
前川  僕は98年に初めてアラスカに行った時に、こんな世界があるのかとびっくりしました。クジラがジャンプし、イルカは船について泳ぎ、無数にある島では海岸をクマが歩き、樹上にワシが留まり、ラッコがプカプカ浮いて貝を割っているというような、動物の王国でしたね。

地域に合った自然と人間の共生

小原  今の日本で普通に暮らしていたら、本当の自然の良さに接することは少ないですよね。ホタルは暗いとすごく高く飛ぶのですが、生息地の周辺が明るくなり、高く飛ぶホタルを見ることは少なくなりました。「川をきれいに」とは言っても、「街を暗く」と言われることはありません。この約20年で一番変わったのは、郊外の明るさです。バブルでも持ち主が売らずに残っていた里山が、相続しきれず売買されて開発されています。街の明かりの影響で空が明るくなり、美しい星空も味わえなくなっているんです。

前川  子どもが通う小学校で、白神山地を題材に自然環境を守るには人の手を入れた方がいいかどうかを勉強していて、先日、頼まれて話をしてきました。僕は、世界の動物や環境の写真を見せながら「どちらもあるのでは」と伝えたんです。白神は核心部と緩衝地帯があって、核心部には道も作らず人が入れないようにしたのがうまくいったのかなと思いますが、環境保護の方法は、地域に合ったやり方が必ずあるはずです。
小原  イヌイットが猟をする地域では、白クマは点のように見えたところから走って逃げます。保護区だと人間の姿を見ると寄ってくるんです。動物写真家になったころ、同じ地球なのにこうも人間と動物の関わり具合で違うのかと思いました。自然と人間の共生の問題では、どちらかを百点満点にするのではなく、どうバランスを取りながらうまくやっていくかが大切で、自然が人間とどういう共生を望んでいるかを見抜く力がすごく求められていると思いますね。
 何かを大切に守ることは「好き」という感情から来る力が大きいと思います。だから、私たちEYE WITNESSは、自然のすばらしさをたくさん写真にして、みなさんに「自然が好きだから守ろう」と思ってもらえるように活動をしていきたいと思います。

中日新聞朝刊 平成25年1月22日付掲載

小原玲(おはられい)

1961年東京都生まれ。米国写真通信社の報道写真家として湾岸戦争、ソマリアの飢餓などを取材。天安門事件の写真では米国LIFE誌のThe Best of LIFEに選ばれた。アザラシの赤ちゃんとの出会いを機に動物写真家に転身。目撃した地球温暖化による流氷の異変を伝える活動を続けている。著書、写真集は『流氷の伝言― アザラシの赤ちゃんが教える地球温暖化のシグナル』(教育出版)、『ほたるの伝言』(同)、『アザラシの赤ちゃん』(文春文庫)など多数。http://www.reiohara.com/

宮崎県延岡市北川町のゲンジボタルの乱舞。日本にもこんなすごい自然がまだ残っていたのかと驚嘆した光景。

宮崎県延岡市北川町のゲンジボタルの乱舞。日本にもこんなすごい自然がまだ残っていたのかと驚嘆した光景。

流氷の上で産まれるタテゴトアザラシの赤ちゃん。好奇心旺盛な目で愛嬌いっぱい。しかし、その誕生の場の流氷に異変が。

流氷の上で産まれるタテゴトアザラシの赤ちゃん。好奇心旺盛な目で愛嬌いっぱい。しかし、その誕生の場の流氷に異変が。

2007年の流氷。ボロボロの氷に出産場所を求めるアザラシのメスが集まる。

2007年の流氷。ボロボロの氷に出産場所を求めるアザラシのメスが集まる。

前川貴行(まえかわたかゆき)

1969年東京都生まれ。97年より田中光常氏の助手をつとめ、2000年よりフリーの動物写真家として活動を開始。日本、北米、アジア、アフリカを主なフィールドとして、野生動物の世界をテーマに撮影に取り組む。2008年日本写真協会賞新人賞受賞。作品は東京都写真美術館、柏崎市立博物館などに収蔵されている。著書、写真集は『WILD SOUL 極北の生命』(小学館)、『Animal eyes 』(青菁社)、『Bear World クマたちの世界』(同)など多数。http://www.earthfinder.jp/

アラスカ・キーナイ半島の海岸で越冬するハクトウワシは、この地において食物連鎖の頂点に立つ。

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アラスカ・カトマイ国立公園には野生のグリズリーが数多く生息している。彼らを支えているのは大量に遡上するサーモンだ。

アラスカ・カトマイ国立公園には野生のグリズリーが数多く生息している。彼らを支えているのは大量に遡上するサーモンだ。

獲物を狙い、飛翔するハクトウワシ。絶滅寸前だったアメリカの国鳥は現在、数を回復している。

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