インタビュー

国際政治学者 武者小路 公秀さん

環境にやさしくない開発は、やればすぐに、行き詰まってしまうでしょう

貧困撲滅の軸足を、環境問題解決の側に置く

 COP10では南の国々が、生物資源のために南に植民地を作ってきた欧米諸国に、「過去400年の借金を返せ」と言い続けました。40年ほど前に行われたキリスト系NGOの会議ですでに、南米の参加者が「南が貧しいのは植民地支配されたからで、北から南への資金や技術の供与は、偽善的慈善活動にすぎない」と主張。その結果、植民地主義が貧困化だけでなく“環境”にも影響を与えてきたことを軸に、南北問題から生じる貧困と環境破壊を克服していくことになったのです。

「持続可能な開発」を唱えたブラジル・リオの地球サミット

 前述の会議参加者の一人が事務局長を務め、1972年にストックホルムで「国連人間環境会議」が、国連で初めてグローバルな問題を討議する大規模な会議として開催されました。「生態系にやさしい発展」を唱えたこの会議を機に、NGOフォーラムという市民団体の国際会議も並行して始められました。その20年後の1992年にリオで同じ議長のもと行われた「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)では、「今行なっている大量生産・大量消費・大量廃棄の経済開発を続けても長続きしない。持続不可能な開発を止め、持続可能な開発へと舵を切るべき」と呼びかけられました。

国連人権理事会のサイドイベントで議長を務める武者小路氏

「先住民族の知恵を尊敬するべき」と、COP10で宣言

 COP10で新しい歴史を刻んだのは、「ILC(先住民族と地域社会)」という名札を下げた人たちの登場でした。自然と溶け合い伝統的な生活を送っている、日本のアイヌ民族、沖縄・琉球の人々や太平洋諸島の人々、アメリカ・インディアン、北アフリカのベルベル族などの先住民族たちが、正式に会議の参加者となったのです。このように伝統的な農林漁業で生計を立てる人々が大切にされるようになったのは、彼らの生活の仕方を忘れた大都会の我々が、工業化で自然を破壊し長続きできない「持続不可能な社会」を作っていることへの反省からです。

生命流域という概念を、中部ESDの核に

 COP10で連携し活動したさまざまな市民団体のネットワークの中に、中部を拠点とする「生命流域部会」があります。生命流域とは、多様な命が息づく水の循環を分断している現在の開発政策が、生物の多様性を不可能にしているという考え方です。伊勢三河湾流域では木曽川や庄内川などの上下流で分断が起こり、上流の村が過疎化し森が荒廃する一方で、下流都市の住民も雇用問題などで不安全に暮らしているといった悪循環に陥っています。ESDは国でなく、地域が単位。“生命”を支える流域でまず問題を解決していこうという、生命流域の考えと重なります。

地域を起点に、農・漁・林業と商をつなぐ

 衰退する駅前商店街を農村・漁村とつなげるなど、今後は一次産業と、その価値を理解する中小の商工業との関係作りを推進していきたい。“地域”を主に、日本で間に合わないものを外国から入れる。地域の企業をつぶしてでもグローバル経済競争に勝とうとすることは、もはや持続不可能です。日本経済の実力で地域の農林漁業や中小企業を生かし、その上でグローバル経済に参加するべきです。地域の生活を活性化できて初めて、グローバル経済も、人や自然にとって破壊的でなくなるのです。

中日新聞朝刊 平成23年1月10日付掲載

ESD(Education for Sustainable Development)

国連大学が提案し、ユネスコなどの国際団体や地域団体がネットワークでつながり活動を推進するもので、社会の課題と身近な暮らしを結びつけ、地域の人々の世直しのための相互学習として、持続可能な開発教育を推進するしくみ。世界に約70拠点あり、日本では仙台、横浜、中部、神戸、岡山、北九州市が認定されている。

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