インタビュー

食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク共同代表 河田 昌東さん

 日本では、国が認可しているのに、遺伝子組み換え作物を栽培する農家がまだ一軒もないのです

「遺伝子組み換え食品を考える中部の会」では年2回、抜き取り隊がGM作物の自生調査を行っている

歓喜にわいた補足議定書採択の瞬間

 今回「名古屋・クアラルンプール補足議定書」(遺伝子組み換え被害の補償ルールを定めた国際協定)が採択されたことは、大きな意義があると思います。日本は世界最大の、遺伝子組み換え(GM)作物輸入国ですが、前回のボン会議で日本政府は輸出国の損害賠償については問題にしないと主張、途上国をはじめとする多くの輸入国から大きな怒りを買いました。

 その反省から、我々NGOも、農水省や環境省の大臣・官僚らに、全国のGMナタネの自生調査結果を発表し何が問題かを訴えるなど、懸命にロビー活動を展開。採択に向けて、政府とNGOとが一丸となりました。何を損害といい、誰がどのように責任を取り補償するのか、中身はこれからです。

損害の責任は誰に?

 たとえば農業や環境に影響を与える可能性があるGMナタネの自生が日本で見つかった場合、責任は誰にあるとするのか。タネをこぼした輸送業者か、製油会社、輸入業者、あるいは輸入を認可した日本政府か。末端業者に責任を押し付けることは納得できません。工業製品に製造者責任のLPP法があるように、GM作物の開発企業が損害責任を負うべきというのがNGOの主張です。

予防原則に学ぶ

 「予防原則(被害発生時のため予め準備しておく考え方)」のEUに対し、アメリカや日本は「リスク評価(様子を見て問題発生時に対策を講じる考え方)」の姿勢をとっています。GM作物に関してEUでは、混入率が1%(日本は5%)以上の食品に対しては、表示義務を課すとともに、バーコードから生産者名、農薬内容や栽培方法、輸送ルート、加工者名などの詳細がわかるトレーサビリティ制度を採用。両方の情報公開を義務づけています。

GM作物の最大生産国アメリカ

 組み換え作物栽培地の85%がアメリカ大陸にあり、アメリカ産大豆の9割以上、トウモロコシの約4割、カナダ産ナタネの95%で、アメリカの大手企業が開発し除草剤に耐性をもつよう遺伝子組み換えされた作物の種が使用されています。しかもこの種は特許商品で、農家は毎年、種と除草剤をセットで購入しなくてはならなくなります。

国内法の整備が急務

 日本政府はGM作物の使用と栽培を認可していますが、国内の農家で実用的な栽培実績はまだありません。消費者が受け入れないからでしょう。しかし今後の栽培状況に備えるため、北海道などの各自治体では「栽培規制条例」を策定し始めています。

 一方で、GM作物に関する「カルタヘナ議定書」が、国際的には農業や人間の健康、自然を対象にしているのに対し、国内法の対象は固有種のみ。固有種に悪影響があれば損害と認め、農作物が組み換え生物により汚染されても対処の必要がないというのは世界の常識とかけ離れています。議長国である2年間に、この国内法を世界水準に近づけたい。日本は世界をまとめていく責任があるのですから。

生物多様性を失わせる農業のモノカルチャー化

 アフリカなど途上国の研究者たちは、従来守っていた農業が大規模化し、遺伝子組み換え化されることに危機感を抱いています。大規模農業では大規模農家に利益が集中し、在来農家は土地を買収され賃金労働者となり、生物多様性と文化も失われてしまいます。

 世界規模で食料事情を見ると、実際には小さな個別の農家が農業を支えているのです。日本も含め、消費と生産が成り立つ、安全で持続可能な農業の姿を真剣に考える時期が来ています。

中日新聞朝刊 平成22年12月10日付掲載

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