インタビュー

(独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターシステムバイオロジー研究プロジェクト・プロジェクトリーダー 上田 泰己さん

地球がゆらげば、体もゆらぐ 全てのいのちは、地球を抱いている

生物の体に宿る、地球

 「体内時計」とは、地球を体の中に表現しているようなものです。地球は朝が来て夜が来てまた朝が来るというように、1日に1回自転しています。生物の体内にも24時間を表現するシステムがあり、地球の自転を自分の中に表現することによってより良く生きる方向へ向かわせるというのが、体内時計が存在する理由ではないかと想像しています。

 外部の環境がゆらいでいるので、内部もそれに合わせてゆらがせようとする生命の仕組み。体内時計はいわば、“内なる外”のようなものなのです。

時計劇を演じる役者を解き明かす

 早朝に開き夕方に閉じる、葉の就眠運動から確認された、時計の存在。その後、ほとんどの生物の細胞に24時間のリズムを刻む「時計遺伝子」があることが多くの科学者によって明らかにされてきました。

 21世紀にはヒトのゲノム(全遺伝情報)が解読され、ヒトの2万数千個の全遺伝子の中から、時計遺伝子が20数個ほどあることをこのプロジェクトで解明しました。各遺伝子を俳優に例えるなら、全俳優リストの中で時計劇を演じている役者たちを特定したわけです。さらにその劇が朝昼晩の三幕であることを解き明かすことができました。

 面白いことに朝の劇を司る特定の酵素が体内時間を決定づけていることを突き止めました。例えば、この酵素の働きを特殊な薬品で制御すると、1日を48時間にするといった、時計の速さをも操れることができます。さらに驚くことに、この酵素は従来の生命科学の常識を覆し、温度に依存しないことが判明。それにより体内時計は温度によってブレない、時間の定規のような性質を持っていることがわかりました。

多様性が新しさを生み出す

 “異なるものが密度濃く反応することで新しいものが生まれる”という理念のもと、研究に際し、医学や物理、数学など異分野の専門家たちが1つの場で濃密な空間を共有する試みを行いました。その違いが大きければ大きいほど、より新しい可能性が生まれます。

 この試みが功を奏し、当研究所での7年間で上述したようないくつかの世界初の発見が生まれました。多様であることに価値がある。ヘテロ(異なる)なものを活かすシステム作りは、これからの日本にとって重要な要素になると思います。

生命科学が未来にもたらすもの

 “生命とは物質でしょうか?”逆に、“物質から生命を創り出せるのでしょうか?”という長年の問い。人類は生命科学の謎を解明することで、医学において新たな治療薬・治療法を生み出してきました。

 生命への理解を突き詰めていくと、生命を存在させる根源である細胞のようなものを“創る”という方向に必然的に向かう気がしています。その過程で培われた技術は、持続可能な未来に向けて、医療はもとより食料や環境、またバクテリアなどの現存する生物からエネルギーを作るといったエネルギー分野などにおいて、必要な技術となっていく可能性が議論されています。

理化学研究所のシンポジウムで講演する上田教授

地球の時間を良くするチャンス

 細胞に対して部品であるたんぱく質がとても小さいように、地球に比べ人間はとても小さい。しかし微小なものでもつながれば、行動や状態を変えられる大きな出来事や現象になる。つながることができるかどうかで、地球の時間を良くも悪くもできるのでは。COP10では、異なる考えどうしが結び合わされ、地球の状態を良くするために活かされることを願っています。

中日新聞朝刊 平成22年8月10日付掲載

講演のお知らせ

 上田泰己さんは、10月7日(木)中京大学文化市民会館(愛知県名古屋市)にて開催の「NRI未来創発フォーラム2010-名古屋-」(中日新聞社共催・聴講無料)にご出演予定です。

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