インタビュー

株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所所長 赤池 学さん

多様さを示す『カカトアルキ目』の発見 昆虫は技術と知恵の宝庫

世紀の大発見!『カカトアルキ目』

 目(もく)というのは、チョウ目やトンボ目といった31に分類される大きな項目で、目の下にモンシロチョウや赤トンボなど80万以上の種(しゅ)があります。アフリカの超乾燥地帯に生息するカカトアルキは、どの目にも属さない新種の目であることが判明。88年ぶりの新目誕生は、昆虫界にとって大きな衝撃でした。

 カカトアルキは餌を捕るために使用する六本の足先を傷つけないように、移動するときにはかかとで歩きます。苛酷な環境で生き抜くための、感動的な知恵ですね。

虫の技術は未活用な巨大資源

 大きくなる戦略をとった私たち高等哺乳類に対し、生物種の半数以上を占める虫たちは体を小さくし、数を増やす戦略をとりました。

 同時に変態の過程で食性を変え、さまざまな食べ物を摂取するという技も編み出したのです。たとえばキャベツを食べていたモンシロチョウの幼虫は、蝶になると花の蜜を吸う。1つの食性に頼っていたら一生を通じ一定の期間に育つ食べ物にしか依存できません。虫たちが多数派になれたのは、すごい技術や機能性を開発してきた結果。だから昆虫から学ばない手はないのですが、人類は食用、養蚕、養蜂にしか活用しきれていない。

昆虫は、ものづくりや発明の母

 航空機はトンボの飛行原型がヒント。パラシュートはクモの糸から着想しました。レオナルド・ダ・ヴィンチもハチの羽ばたきからアイデアを得て、ヘリコプターを試作したといわれています。また、炎天下の桑畑で未来の子孫を入れるシェルターとしての繭(まゆ)を作る蚕の様子から、UV(紫外線)カットのシルク化粧品開発につながりました。

 さらに、繭を作ってサナギになると休眠ホルモンを生産し動かなくなるヤママユガの蚕を観察し、昆虫の休眠ホルモンで人間のガン細胞を眠らせることができるのではとひらめいた学者がいました。今、“昆虫から学ぶ”ガン細胞を眠らせる新薬の実用化研究が、国家プロジェクトとして進められています。従来の細胞を殺す抗がん剤と違い、新薬はガン細胞を眠らせ進行を止めるだけのものなので、副作用が少ないと期待されています。

驚異の虫パワー

カカトアルキ標本(成虫)。左からオス、メス、オス。

 今月から名古屋市科学館で開催される「ふしぎ!昆虫パワー」展は、カカトアルキの標本の実物が見られる貴重な機会です(写真右)。蚊の針を模倣した痛みを軽減する注射針や、モルフォ蝶の構造色機能(化学色素を使わず光の屈折干渉だけで多様な色を創出)を利用した製品、昆虫ロボットの展示など、虫たちの不思議な力が凝縮されています。

 遺伝子組み換えをした“発光する蚕”も目玉の1つ。関連技術はすでに産業界でも実用化が進んでいます。たとえば薬を作る他の生物の遺伝子を蚕の遺伝子に投入し、糸と一緒に薬を吐かせようという試み。それまでは大腸菌を用いていたのが、この方法なら大量に抗生物質を作ることができます。すでに、ある企業の昆虫工場ではこの方法でペット用インターフェロン(免疫性を高め、病原体ウィルスの増殖を抑制)を製造しています。

昆虫のゲノム(全遺伝情報)や知的財産を所有する日本

 稲作の国、日本では虫との接点がもともと多く、枕草子などの古い文献には虫が登場し平安貴族たちも“聞き虫の会”を楽しむなど「虫愛(め)づる」文化が日本にはあります。明治時代にはGNPの半分以上を蚕糸産業が占め、蚕糸研究所が各地にありました。夏休みの自由研究で昆虫採集をする国も日本だけです。

 日本は緯度の関係で亜寒帯から亜熱帯まであり、虫の種数が群を抜いて多いのです。虫は南アジアの生物資源。だからこそ昆虫ビジネスは日本が狙える領域なのです。COP10は虫に学ぶ持続可能なものづくりを発信できるチャンスだと思っています。

中日新聞朝刊 平成22年7月10日付掲載

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