インタビュー

動物写真家 小原 玲さん

流氷がなくなったら、お母さんアザラシは赤ちゃんを産めなくなってしまいます。

流氷が赤ちゃんを守り、泳ぎを教えていた

1992年の流氷、どこまでも続いて真っ白な世界が流氷だった。多くのアザラシが出産のために集まっている。

 アザラシは流氷の上で出産します。母子が共に過ごすのは2週間。赤ちゃんを残して母アザラシが先に北の海へ戻ります。赤ちゃんは流氷が融けて小さくなるにつれ大きな氷へ移りながら、泳ぎとエサ捕りを覚えるのです。10年前までは流氷の上にヘリコプターで着陸、テントも張れたのですが、60センチあった厚さが半分になり今は不可能です。今年、カナダでは出産時期の3月に流氷がなくなっていました。産む場所がなく死産したアザラシも相当いたことでしょう。カナダ政府は2002年に、毎年約70万頭生まれる赤ちゃんの75%、約50万頭が温暖化による流氷の影響で死亡した可能性が高いと報じています。

 日本でも最近、知床半島の流氷の周囲でシャチが泳いでいるのがよく見かけられます。シャチにとってアザラシの赤ちゃんは大好物。最も近い安全な流氷まで200キロの道のりを、シャチに襲われずに泳ぎきれるとは思えません。

“流氷の伝言”を伝えたい

2007年、ボロボロの氷に、アザラシが出産せざるを得なくなってしまっている。そして今年2010年はアザラシの出産前に流氷がすべてなくなってしまっていた。(カナダ・セントローレンス湾)

 流氷がおかしいと言い出した頃、別の場所でも環境異変に気づいた写真家たちがいました。変化の速さと規模の大きさに個々ではとても太刀打ちできないと、彼らと「Eyewitness」を創設。各々が一つのテーマを長く撮影しているので、本当の変化を見てきています。流氷の目撃者として、それを写真に残している自分が声を上げないと、誰にも伝わりません。

 難民キャンプで痩せた子供を捜すといった、社会的に“意図”された写真から解放されたくて、「うわっ、可愛い!撮りたい!」という純粋な感動をストレートに伝えられる動物を撮るようになったのですが、最後にアザラシや流氷から「あんた、このこと伝えてね」って託されたような気がします。

ホタルは、人間と生き物との共生を象徴する昆虫

身近な自然の保全にどう関わっていくか、それが環境の異変を目撃した私が考える行動です。名古屋にはホタルが道案内をする小径があります。この小径を後世に残すことができるのか」。小原さんが企画した『ほたるの伝言―相生山緑地のヒメボタル』が5月27日、名古屋市天白文化小劇場で開催され、ミュージシャンの原田真二、ソプラノ歌手の雨谷麻世らが参加、ゲストに河村たかし市長と庄野真代も駆けつけ会場を盛り上げた。

 日本人として撮っておきたいと足を向けた九州のゲンジボタルの大乱舞に、こんな自然がまだ日本に残っている喜びと、次世代がそれを見られるのか不安を感じました。ホタル前線を追って全国で12年間撮り続け、日本のホタルのいい風景を随分写真に残せた自負があります。でもその3割が、既に消滅しているのです。

 相生山のヒメボタルには驚きました。日本中のホタルを見てきましたが、国内の平野部で、暗くて、これだけホタルが高く飛び上がれる生息地はありません。

 それまでの市の調査は、午後10時頃の成虫(成虫期間は1年のうち1週間)の数を調査したものですが、市民100名の協力で、独自に『幼虫でピーク時のホタル生息分布調査』(深夜1〜2時がピーク)と『開発か保護かの市民の意識調査』を実施しました。「難しい問題だけれど“考える”」という現市長の方針で、道路工事が8割終了した現在、建設を中断し再検証が始まっています。

 問われるべきは、開発か保全かではなく、“考えて”やったのかどうかです。「なぜここに道路を作ったのか、なぜ守ったのか」を子供たちにきちんと伝えられる形にしたい。

“身近な緑”を守ることから

 1人が身近な緑を守れば、それがつながり地球全部の緑が守れるという考え方があります。私も同感です。カナダの流氷をどうしようということよりも、自分がどれだけ身近な緑を守っていけるか。そのことは、自分が自然とどう生きていくかの問題です。

 生物多様性も、自分の好きな生き物を大事にすれば、やがては地球の生き物すべてにつながっていく。好きなもののことを1番に考えたいんです、人間は!

中日新聞朝刊 平成22年6月10日付掲載

一覧に戻る

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ