インタビュー

アルピニスト 野口 健さん

白神山地のマタギは多くを望まない いのちをいただき、山の神に感謝する

ヒマラヤの氷河は、すごい勢いで融けている

 エベレストのベースキャンプ周辺では、氷河の融解で岩が露出し、融けた水が川のようになり、テントをあちこち移動させねばなりません。また、雪崩と氷河の陥没が多発し、去年、マナスルでは別の隊の1人が命を落としました。氷河が融けると氷河湖ができ、これが近年急激に拡大して決壊し、村を襲う現象がネパールやブータン、チベットなどで起きています。ヒマラヤに行き始めて20年ほどの間だけでも相当な変化です。

現場で見る、自然界の異変

 ジャングルだと思い込んでいたボルネオは、山上から見ると、羊が毛を刈られたようにあちこち穴だらけでした。環境型エネルギーとされるバイオ燃料の原料になる油ヤシのプランテーションのため、森林が大伐採され、スマトラ島とボルネオ島にだけ生息するオランウータンがすみかを奪われ絶滅しかかっています。

 アフガニスタンの難民キャンプに入ったときには、戦争難民よりも水を求めてさまよう水難民が多いことにショックを受けました。雪が降らずに山が枯れてくると、水が湧かなくなり、干ばつがいたるところで発生。泥水をすすりコレラなどで亡くなる子どもが後を絶ちません。「温暖化の原因を招いているのは彼らではなく、先進国に住む我々なのだ」という思いがこみあげてきました。誰もが被害者であると思いがちな環境問題ですが、日本にいる私たちは、実は加害者側にいるのではないでしょうか。

マタギから学ぶ、生物多様性の原点

 ブナの原生林が美しく湧き水がきれいでおいしい、マタギが暮らす白神山地に毎年行きます。以前は大量伐採されていたブナ。ブナの木が切られると熊が生きていけなくなります。マタギたちは森と共存しながら、白神山地を守ってきました。ところが世界遺産になったとたんに観光客が殺到。環境保護団体は、熊を撃ち殺すマタギを “環境を破壊している”という理由で、マタギ追放運動を始めたのです。

 マタギが1年の間に捕る熊の数は3匹だけで、自然に感謝しながら肉、毛皮、漢方薬に使う胆汁まで全てを使い切ります。彼らは生態系のバランスを熟知し、いただく熊の数を決め、そのルールを守ってきました。マタギも、白神山地の生態系の一部なのです。人間が生きるということは、自然のいのちをいただくこと。そのバランスが大事で、もらいすぎてはいけないのです。

ネパール人シェルパたちの思い

 エベレストの清掃活動で、三人のシェルパを失いました。活動停止も考えましたがメンバーからは「続けたい」と。清掃を終えた彼らは村へ帰ると、自ら村にゴミ捨て場を作り、村の学校でエベレストの清掃活動の様子を伝え始めました。青少年の彼らは、「今はネパール中にゴミがあふれている。エベレストはネパールのシンボルだから、この清掃をすることで、エベレストからネパールを変えたい」と言い、自分たちの活動がネパール中に広がって、社会を変えていけると信じています。今では彼ら自身が資金を調達し『ネパール人シェルパによるエベレスト清掃隊』を結成、活動を続けています。

“富士山から日本を変える”をスローガンに活動を続ける/野口健事務所提供

環境問題は、“人間”が相手

 「世界中の山で富士山が1番汚かった」という他国の登山家の言葉をきっかけに始めた富士山の清掃でも、拾うだけではダメで、拾いながら、どうすればゴミの出ない社会を築いていけるのかを考える。そこで地元の山を守ろうと山梨県独自の『富士山レンジャー』を結成、パトロールを開始しました。不法投棄をする犯罪者に効果的なのは、地元の人が目を光らせていること。これを徹底的にやったら、樹海での不法投棄が激減しました。次には入山制度やゴミを出さない社会をどう作っていくかという仕組みづくりをしていきたいと思っています。

 1,000万人を超える東京で、これだけ空気がきれいなのはすごいこと。環境技術や規制などの面で、日本は間違いなく最先端です。鍵となるのは、行動を起こすための “きっかけ”ですね。

中日新聞朝刊 平成22年5月10日付掲載

ホームページ:野口健公式WEBサイト

一覧に戻る

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ