インタビュー

財団法人日本モンキーセンター附属博物館世界サル類動物園長 加藤 章さん 「サルほどまとまりのない動物の集団は、いない」と話し、人と同様に個性あふれるサルたちの多様性に満ちた世界を、愛情でうまくまとめる。難しいとされる放し飼いでの生態展示を可能にした人気の『Waoランド』では、同園が開発した飼育技術やスタッフの資質の高さをアピール。航空機模型、ペーパーウエイト、小石などのミニチュア集めが趣味。獣医師。。

野生のサルがいるのは、先進国で、日本だけです

葉食動物のサルは、ヒトの仲間

 ヒト科に分類され絶滅が危惧されているゴリラは、木の葉を主食とする心優しい動物です。砂を指の間から落として1人遊びをしたり、ドラミング(胸をドンドンたたく)を見せてあげようとがんばったり、そうっと背後から忍び寄りドンとつついて人をびっくりさせて喜ぶお茶目な面も。がっくり落ち込むナイーブさもあり、まるで人間のようです。

 サルはヒトなんですね。そしてヒトは、サルの仲間であり動物の一種に過ぎない。

 ゴリラを筆頭に、サルの多くは葉食動物です。木の葉を主食にしている動物は、毛虫とサルとキリンくらい。植物にはアルカロイドと称される有毒成分が多かれ少なかれ含まれており、これを常食にするというのは大変なことです。アセビ(馬酔木)のような猛毒植物も鹿が食べると死んでしまいますが、ニホンザルは食べられる。また人間が1グラムでも口にすれば死んでしまう猛毒のタケノコを主食にしているサルもいます。

 他者が食べられないものを主食にすることで、自分たちの食料事情を安定させる有利さを獲得した。これもサルの多様性のすごいところだと思います。

 開設時に、サルたちの食料にと周囲に数万本の木を植樹しました。木の枝を購入している動物園が大多数の中、先人たちのおかげで、天変地異が起きて食料が途絶えても、周囲の樹木と水があればサルたちは1ヶ月くらい生きられます。

サルたちのおかげで救われた、多くの命

 野猿公園としてスタートした設立初期は、野生のニホンザルの研究と医学分野への貢献が主な柱でした。

 旧厚生省の依頼でサルを収集、繁殖し製薬会社に供給。小児麻痺予防のためのポリオワクチンの製造に貢献したり(当時は感染させたサルの腎臓からしかワクチン製造ができなかった)、(財)日本自動車研究所の依頼で、日本発の技術となったELR(緊急時ロック式巻取装置)装備のシートベルト開発にも協力。

 またWHO(世界保健機関)の依頼では、マラリアに罹患するが発症はしない南米のヨザルを繁殖し、世界中の研究者に配給。マラリア予防薬の誕生に貢献しました。

 現在は実験動物としての供給はしていませんが、過去に犠牲になった何万という数のサルがいたことを、訪れた子供たちに必ず伝えるようにしています。

芸達者な役者たちに、世界が注目

 世界の動物園にいる約120種のうち、72種類がこの動物園にいます。展示種数では世界一。そしてここには、ユニークで芸達者なサルたちが勢揃いしています。

南米のダスキーティティ

 たとえば子供で約6グラム、大人でも約80グラムという超極小のピグミーマーモセットは多くの場合、双子を出産し、授乳以外の全ての育児をオスがします。また南米のダスキーティティは仲良し同士が長い尾を絡め合うのが特徴。現地ではこの光景を目にすると幸せな結婚生活を送れると言われています。

ヤクニホンザル

 元来、野生動物の本能は火を避けるものですが、ここのヤクニホンザルは焚き火にあたり焼き芋を楽しむようになりました。餌をかき寄せるためのマイスティック、いわゆる道具を隠し持っている者までいます。世界遺産構成動物で屋久島以外ではここでしか見ることができません。

マダガスカル島にだけ生息するワオキツネザル

 マダガスカル島にだけ生息するワオキツネザルのいるWaoランドではとても間近にサルを見られます。目の前で4メートル以上空中を飛ぶ様は迫力満点です。

大型類人猿の保護活動で、世界に貢献

 先進国の中で野生のサルがいるのは、日本だけです。その数は激減しており、気がつけば昔ニホンザルがいた、という時代がそう遠くない日に訪れるような気がしてなりません。

 一方で海外の動物園からの入手は困難を極め、国家間の手続きだけで数年も要します。この状況が続けば、動物園のサルは10年後に約半数になっているでしょう。

 公費で山に実のなる木や広葉樹を植樹しサルが生きていける環境を作ってもらえれば、サルによる被害も少なくなると思います。人間が彼らの生息域を奪ってしまったのですから。自然と人間が共生できる、本当の意味での文化の高い日本になってほしいと願っています。

 COP10および生物多様性への取り組みとして、チンパンジーをはじめとした大型類人猿の世界規模での保全計画(GRASP-Japan)に協力し、その日本事務局をここに置いています。また絶滅危惧種のウシモツゴの保護や増殖もしています。実は同魚の生息地である犬山市は、全国でも里山の環境をよく残している地域なのです。このように博物館としての機能や役割も、世界に向けて積極的に発信していきたいと思っています。

中日新聞朝刊 平成21年10月10日付掲載

GRASP-Japan
チンパンジーやゴリラ、オランウータン、ボノボなどの大型類人猿を保護しようと、ユネップ(国連環境計画)とユネスコ(国連教育科学文化機関)が推進する『大型類人猿保全計画』。日本では(財)日本モンキーセンター所長で京大名誉教授の西田利貞さんが中心となって推進している。

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