インタビュー

生物多様性条約事務局長 アハメド・ジョグラフさん 1953年生まれ、アルジェリア出身。アルジェリア・アルジェ大学法学士号、米国セントジョンズ大学芸術・行政・政治学修士号、フランス・ナンシー大学政治学博士号取得。アルジェリア首相環境問題特別顧問、国連環境計画(UNEP)地球環境ファシリティ調整局長、同事務局長補佐官等を歴任後、2006年1月、生物多様性条約事務局長に就任。カナダ・モントリオール在住。二児の父

日本の里山は知恵袋 文化と自然で独自性を保つ

自然の力に感動した個人的経験をお持ちだと聞きました

 10歳くらいのときに深刻な感染症にかかったことがあります。西洋医学の医者に行って治療しようとしましたが、症状はどんどん悪化しました。医者から「両足を切らないといけない」と言われ、伝統的な医療を施すヒーラー(治療者)のところに行ったのです。自然のことを本当によく知っている人でした。彼女は、いくつかの植物を採り、混ぜて足に塗りました。そうしたら、2週間ほどで足はすっかりよくなったのです。

  その人と自然のおかげで、今、私には両足があるのです。だから、そういう伝統的な知恵、自然の力を私は強く信じています。自分の夢は、伝統的な薬物や植物を守るためのバンクをつくることです。そのために生物多様性を大事にする必要があるのです。

  年寄りが死んだときに失われてしまう伝統の知恵を、人類のためにも保全する必要があるのです。私は、日本の里山に残る知恵はその一例だと思っています。里山という考え方は伝統文化を守るために大切だと思うのです。

市民グループとの意見交換会で熱弁を振るうジョグラフ事務局長

日本の様々なグループが、日本の伝統や文化の意義をCOP10で発信したいと考えています

 COP10は、日本にとって非常にユニークな機会だと思います。日本はとても都市化が進んでいて、最新技術を開発していながら、同時に自然とも共生している国であり「近代的でありながら、伝統的な価値観や文化を守ることができる」というメッセージを発信することができるでしょう。日本政府は、COP10のテーマに「自然との共生」というコンセプトを入れたいと考えていると聞いています。これは、里山のようなコンセプトや日本の価値観に基く考え方です。

  里山や里海という言葉は日本独特のものですが、こうした考え方はほかの国にもあります。しかし、多くの国では、忘れられて、過去のものとなってしまっています。日本にはまだそれが生きています。

  里山をコンセプトとして示すことで、世界の多くの国々の人たちに彼らが持っていた伝統や、自然と共生していく考え方を思い出してほしいのです。

  貧しい国や開発途上国の多くでは、過去や自分たちの文化を見つめ直すことなく、西洋化を最優先して文明化してしまいました。

  でも、西洋のものすべてがいいわけではないと思うのです。

日本でも里山の文化は消えつつありますが

 自然と文化にはとても近しい関係があります。自然を壊すということは我々自身のアイデンティティを壊すことにつながりかねません。名古屋のCOP10では、「文化的多様性と生物多様性」というテーマについて、ユネスコと共にプログラムを実施する予定です。

  生物多様性の豊かなところには文化的な多様性があります。言葉が豊かなのは、自然も豊かだということです。自然の多様性がなくなると文化の多様性もなくなっていきます。文化を守ることは自然を守ることにつながるのです。

  技術や科学が自分たちのすべての問題を解決するという神話がありました。しかし、文化や伝統や精神性はとても重要な役割を持っています。例えば、自然を守ることが大切だと言わない宗教は一つもありません。そこでは、生き物は神様の創造物であり、いのちは聖なるもので、神様の創る物は大切に守らなければならないのです。ユネスコとともに行なうこのプログラムは、文化的、精神的、文明的な観点に立って生物多様性の重要性を伝えるのに役立つはずです。

中日新聞朝刊 平成21年6月10日付掲載

生物多様性条約事務局
カナダ・モントリオールに本拠を置き、締約国会議(COP)の開催準備や、様々なプログラムの実施に向けた各国政府への支援、生物多様性に関する広報などを行っている。

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