インタビュー

作家・ナチュラリスト C.W.ニコルさん 英国ウェールズ生まれ。空手修行のため1962年に初来日。80年に長野県黒姫に住居を構える。執筆活動を行ないながら、荒れた森を購入し生態系の復活を試みる活動に従事。95年日本国籍取得。2002年財団法人C・W・ニコルアファンの森財団を設立。主な著書に『風を見た少年』『誇り高き日本人でありたい』など。

森が育む「いのちの環」 生物の多様性は、未来の可能性

 「天気がいいから、森に行きましょう」。今回のインタビューはニコルさんの案内で「アファンの森」を散策しながら行われました。

カラスと会話するニコルさん。「くわっくわっ。かあー」

地面が柔らかいですね

 「アファンの森」は、ゾーニングをしています。人が入る里山と動植物の為の森。人が歩く所と人が集まる所に、間引いた枝を使ってチップにしたじゅうたんを敷いています。そうでないと踏みつぶされて地面が固くなってしまうのです。ネズミの穴や歩いた跡もあるでしょう。ひどい時は植えた苗木の9割はネズミにやられてしまうのです。たぶん一昨年すごくドングリがあったから、沢山生き残ったのじゃないかなあ。去年はそんなにドングリがない。だから代わりに苗の根っこを食べる。

森の再生と共にいきものたちが戻って来ます

 ここに川を作ったら3年で22種類のヤゴが発見されました。池にはフナが入ってきた。鳥の足に卵がくっ付いてきたのでしょう。すると今度はフナを狙ってカワセミが来た。だからカワセミが巣をつくれるように隣の池には土手を作りました。最初に土地を調査したら7種類だった山菜が、去年調べたら170種類になっていた。植えているんじゃないの。環境を良くすると、ちゃんと戻って来るのです。

「これくらいの太さがあれば材木として使えます」 

森は心の再生の場所

 ウェールズでは30年以上前から生活習慣病の患者に森の散歩の処方箋を出しています。2時間森を散歩してから計ると血圧は確実に安定しますし、免疫も高くなる。森は癒しの場所でもあるのです。日本は森の国です。そして森を大事にすると川も良くなります。多様性がもっと豊かになるし、国民が健康になる。大人が手を出すだけでさっと逃げちゃうような虐待を受けていた子どもでも、森で遊んでいるうちに自分から寄って来たりするようになる。本当にがらっと変わるのです。森で寛いでいるとアルファ波が出ますね。穏やかになる。そうすると、いろいろな話が出来る。

普段はこちら(黒姫)にいることが多いのですか

 “It’s my home!” ここは僕のホームだよ。日本人は都会に出てこないといけないと思ってるんじゃないの。それが分からない。都会は混んでいるし、空気が悪いし、大声は出せないし。ここでは僕がケルトの太鼓を練習しても隣では牛がモーモーいうだけですよ。それに我々はほとんどが自給自足です。

今の日本に思うこと

 経済が悪くなって、カネとは何だと本当に考えるようになったでしょう。大切なものは何かと。エネルギーのことも、ちゃんとまじめに考えますよね。だから良かったと思っています。私は日本人を信じます。もっと恐ろしい時代を乗り越えたから。戦争とその後の食料難とかね。日本語の「もったいない」と「いただきます」は私の1番好きな言葉です。簡単で、奥深く、幅広い。日本の文化そのものが表れていると思います。

森が与えてくれる豊かさとは

 生物の多様性は可能性でもあるのです。多様性が豊かな国だったら、いろんなことが可能です。例えば、トチノキは50歳くらいになったら結構大きいよね。花が咲くと1とう缶ぐらいの蜂蜜が採れます。そのトチノキは100年くらい生きるとすると、蜂蜜だけでも毎年の収入は小さくない。森が豊かになって誰も大金持ちにはならないけど、ちゃんと収入があるのです。皆のライフスタイルが豊かになる。健康になる。それが1番大事じゃないかな。

中日新聞朝刊 平成21年4月10日付掲載

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