インタビュー

写真家 髙山博好さん。愛知県生まれ。水族館飼育員として勤務後、生きものの面白さを伝えたいと写真家に転身。その後、四十歳を過ぎてから入学した大学院では水田の生態学を研究。現在は愛知県大府市で農地を借り、耕さない田んぼの学校「エコたん」を主宰している。環境情報紙Risaで「名古屋さとやま生物図鑑」を、本紙面では「いのちつなぐ」を連載中。4月から中日環境netにてコラムを担当。

人が自然に手を加えたことで 田んぼや里山に生物多様性が生まれた

「エコたん」では1年を通じて田んぼに関わる活動を行っている。田植えや稲刈りだけではなく、田んぼやお米を使った文化や風習も体験学習出来るのでおとなから子どもまで大人気。
4月からは、なごや環境大学の講座として認定される。

「エコたん」を始めたきっかけは

   昔から生きものが大好きで、動物園に就職しようと思っていたところちょうど高卒時に水族館で募集があり、飼育員として採用されました。水生生物から進化や生態系を学べ、楽しい仕事をさせていただきましたが、その後、ダイレクトに生き物の楽しさを伝えられる仕事に就きたいと考えるようになり、東京にある編集プロダクションに転職しました。写真は自己流でいいとしても書くことは勉強したくて、仕事をしながら身につけようと考えたのです。2年後に独立してフリーになったのですが、その後別の水族館から誘われて、体験学習を教えるスタッフとして働くことになりました。すると、今度は教えることが楽しくて。環境教育を学べる滋賀大学に入学しました。びわ湖という壮大な水辺環境で学べますからね。ところが行ってみたら、今度は農業にはまってしまって。近所の子どもたちと一緒に大学付属農場で栽培するのが楽しくて、いつか自分のフィールドを持って体験農業を教えたいと思うようになりました。動物写真家ですから水中や高山動植物とかを撮ってきましたが、よく考えたら田んぼというのが幼少期から身近にあって、そこには生きものたちがとても豊富に棲んでいたのです。だから田んぼは撮影現場にもなっています。

何故「耕さない田んぼ」なのですか

   その後、大学院で生態学を研究して、水田のエコシステム(生態系)を再生したいと考えるようになりました。一番環境負荷が少なく、生物多様性が高い方法が、耕さない田んぼ・不耕起農法でした。耕さなければその分、労働エネルギーも化石燃料のコストもカットできます。農薬や化学肥料を使う代わりに、収穫後の藁や米ぬかを田んぼに撒くと、それをプランクトンやイトミミズが食べる。そしてその死骸やフンがお米の栄養分になる。耕さないままの固い土に植えられた稲はストレスを感じます。すると自らエチレンという植物ホルモンを分泌して、その結果しっかり根を張り太い茎を作ります。病気にもなりにくい、台風にも強い丈夫な稲に育ってくれるのです。エコたんの田んぼでは生きものたちが頑張っています。人はただ楽しんでいるだけ。耕さない田んぼを作っている方の多くは冬も水を張るのですが、そうすると1年中生き物が棲めますから、それだけでもトンボが増えたりするのです。田んぼというのは、生き物にとって水辺の延長線上にある湿地に見えるのですね。昔は卵を産みに魚が田んぼに入って来たので、農家が日々食べるくらいの魚が捕れたそうです。昔の人は田んぼからたくさんの恵みを得ていて、それが本当に「(命を)いただきます」なのです。

日本では人間が自然に適度に手を加えることで豊かな生態系が育ちます

   今は生物多様性のために里山を守ろうといっていますが、里山というのは本来、人が積極的に資源を搾取していた場所なのです。エネルギー・肥料・建築資材を摂るために間伐をしたり草を刈ったりすることで、日当りのいい場所が出来て、そこを好む植物が育っていった。人が手を加えたことで結果的に生物多様性が生まれたというのが、日本の代表的な自然、つまり里山の特徴でした。昔はバイオエネルギーしかないわけですから、木を伐るにしても、それがまた薪になるまで成長する時間をちゃんと計算して行われていたのです。だからきちんとバランスがとれていました。

生きものを身近に感じるとは

   知人が主宰する地産地消教室で4月に「ちりめんモンスターを探そう」という講座をやります。ちりめんじゃこの中に混じっているエビやタコ、カニの赤ちゃんを探すのです。そうすると、みんな海に一緒に暮らしていた仲間なんだなってことが分りますよね。ちりめんが食べ物から生きものに変わる瞬間を、子どもたちに体験してもらおうと思っています。本当は生きものが食べ物になるわけだから発想が逆なのですけども。自然について教えているというよりも、自然や子どもたちに気づかされている、教えてもらっていると感じることの方が日々多いですね。

中日新聞朝刊 平成21年3月10日付掲載

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