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時代の移り変わりと生物多様性:先人たちとつながる

 1月30日付の中日新聞(27面)で、林野庁の全国初の試みとして「小規模ダムの撤去」が、昨年11月に群馬県みなかみ町で行なわれたという記事が掲載されている。

 ダムが土砂災害などの防災の機能を果たす一方で、生態系のつながりを断つ一因になってしまっていることから、防災と生態系保全とのバランスを考えていくことの大切さや、最近はもっぱら「悪役」のイメージが強いダムが、実際には土砂をためたりすることで、下流の町を守ってきた功績なども伝えている。

 ダムが造られた当時は、森林で木材や燃料のために伐採が進んでいたが、現在はそこまで利用されていないということも背景にはある。生物多様性はさまざまな恵みをもたらすが、そのなかでも木材や食糧などを施してくれる「供給」という側面と、森が水をためたり、土砂崩れを防いでくれる「調整・制御」の側面がある。今回のダムの例でいえば、森の木材の「供給」という恵みを昔は使っていたのが、現在では土砂崩れを防いだり、水を貯めてくれる緑のダムという森の「調整」の恵みによって、人間の造ったダムが要らなくなった遠因になっている。

 「人間の災」対「生態系」という面もあるが、石垣がカニの貴重な住処となったり、人工物が生態系や生き物と折り合って存在するケースもある。自然再生のやり方次第では、自然と人間の安全や快適性の両方が追求でき、あまりお金もかからない方法についての議論が盛んに行なわれている。

 冒頭の新聞記事の下には、半田市市民交流センターで開催される、衣浦湾岸でのコンクリート工法が普及する前の土木遺産についての講演会や展示会「先人の挑戦と技」の広告が出ている。醸造や昔の湾岸の技術など、生物多様性の話は、いきものだけではなく、現代に生きる私たちと先人たちとのつながりの大切さも教えてくれる。

 COP10支援実行委員会アドバイザー 名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授 香坂 玲

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)公式ウェブサイト

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川を自然の姿に戻す 生態系保護へ 小規模ダム撤去 全国初、群馬で(中日新聞朝刊 平成22年1月30日付)
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2010013002000063.html


著者プロフィール

香坂 玲(こうさか・りょう)

静岡県生まれ。東京大学農学部卒業。ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国で修士、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。2006年からカナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、4月より現職の名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授(林業経済、環境政策論)。COP10支援実行委員会アドバイザー。国連大学高等研究所客員研究員を兼務し、里山の評価などに参画。

著書『いのちのつながり よく分かる生物多様性』<中日新聞社刊>発売中。

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

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