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行政、企業、市民はCOP10を情報発信の機会に

 前回のコラムで紹介したように、国際自然保護連合という国際的な非政府組織やドイツ銀行のエコノミストが中心となり、「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)として、その恵みやサービスを、金額やGDP比の数値でとらえようというプロジェクトが進行中だ。この評価のもう一つの重要な点は、生物多様性の損失が世界経済からみれば微々たる数値であっても、多数の人間が影響を受けることがあると指摘していることだ。

 例えば、干ばつで2800万人のエチオピアの貧困層の収入が半分になっても、世界の経済が生産する物やサービスの0.003%以下にしか相当せず、ほとんど影響がない。では、実際に2800万人の人々の生活が行き詰ってしまって影響がないかといえば、暴動がおきたり難民などとなって移動したりすることによって、周辺の国々だけではなく、安定性の観点から世界中の国々が悪い影響を受けることとなる。狭い意味での経済的なデータだけを追っていると、事態を見誤りかねない。TEEBは、生態系サービスをお金で換算して自覚しようという試みであると同時に、GDPや狭義の経済評価の数値だけでは、大局や倫理的な問題を見誤りかねないことも警告している。

  さて、世界には、一日1ドル未満で12億人、一日2ドル未満で暮らしている「貧困層」が40億人以上いる。「貧困層」と言ってしまうと、悲惨な生活をしている人々というイメージばかりが先行してしまうが、貨幣経済に組み込まれていないだけで、自立的で豊かな生活を送っているケースもある。その人々と、長期的なビジネスの関係を築いていこうという動きがでている。伝統的には、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行などの草の根活動が有名だ。現在、この層に対して安価で良質の商品やサービスを提供していくことで、囲い込もうとするグローバル企業が登場している。

  インドの地域社会でのユニリーバの石鹸や食料品の例が有名だが、実質購買力と生活水準を上げ、収入が上がった後にも慣れ親しんだ商品として使ってもらおうという試みがある。学校や地域社会に積極的に関与していき、教育や支援活動をしながら自社の製品に慣れ親しんでもらうという戦略だ。実際には、貧困層であっても地域の文化への尊敬の念をもち、企業には教育や労働の機会を提供しながらビジネスをする覚悟が求められる。森林や海洋の資源からの生態系サービスへの依存比率が高い貧困層と、安定して取引をしていくためには、地域の環境と生物多様性への配慮も求められる。貧困層と生物多様性との付き合いは、長期的で倫理感を伴う企業戦略を要する。

  日本の企業の社会的な活動をみると、国内での地元の地域住民や社員への活動に比べると、グローバルな貧困などの問題に関心を示している活動はまだまだ数の上では少ない。もちろん、地域や地元の活動も非常に重要で有意義な活動ではあるが、世界第二位の経済国で、グローバルな貿易の繁栄の上に成り立っている国としては、もう少し海外での活動や動向にも目を配りながら、ローカルでも地道で着実に活動をしていくことも大事だ。「あまり社会的な活動を実施していることを喧騒するのは美徳に反する」という雰囲気が国内では強いが、締約国会議などの国際会議の場では、事実や実績に基づいているのであれば、行政も企業も市民社会も、どんどんと情報発信をして構わないであろう。むしろ、経験の共有や世界の反応を見ていく良い機会として、COPという機会を活かし、それに向けて活動を推進していくという積極性と貪欲さが、これから2010年10月のCOP10開催まで重要となる。

 COP10支援実行委員会アドバイザー 名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授 香坂 玲

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)公式ウェブサイト


著者プロフィール

香坂 玲(こうさか・りょう)

静岡県生まれ。東京大学農学部卒業。ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国で修士、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。2006年からカナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、4月より現職の名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授(林業経済、環境政策論)。COP10支援実行委員会アドバイザー。国連大学高等研究所客員研究員を兼務し、里山の評価などに参画。

著書『いのちのつながり よく分かる生物多様性』<中日新聞社刊>発売中。

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

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