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 企業と生物多様性:生物多様性はなぜ必要か

 企業にとって生物多様性はどのような関わりがあるのだろうか。まず、原材料の調達や供給が思い浮かぶ。食料品であればコーヒーや野菜、建築業であれば木材などを自然から得ている。味噌、お酒、薬品などは、材料だけでなく、発酵など加工するプロセスで微生物を利用している。さらに原材料を得るという話に留まらず、その他にも製品やサービスのデザインでヒントを得ている。製造に使う水の浄化、廃棄物の分解や循環を担っているのも、土壌に生きている微生物たちだ。また、人間社会にとって急激な気候変動、集中豪雨、害虫の大量発生などのショックを和らげてくれるのも、さまざまな環境における多様な生物の存在がある。

 英語では「生態系サービス」という言葉を使って、企業が利用している自然からの恵みを自覚し、金額や量など数値として捉えようという試みも行なわれている。国際自然保護連合やドイツ銀行のエコノミストが中心となり、「生態系と生物多様性の経済学」を発表した。そのなかで、2030年までに世界のサンゴ礁の6割、2050年までに自然地域の1割が失われると予測した上で、森林から得られる生態系サービスが失われることによるコストは、年間1兆3500億ユーロから3兆1000億ユーロ(約170兆〜400兆円)に上るとの試算が先の第9回締約国会議で中間報告として発表された。有効なアクションが講じられない場合には、毎年世界のGDPの6%に相当する経済的損失が生ずると警告している。

企業はなぜ行動しなければならないのか

 製品を製造するのに、今では世界中からモノが集められ、組み立てられている。各工場は単独で生産するのではなく、ある部品やユニットが大きなネットワークのなかに供給され、製品が出来上がっていく。サプライチェーンと呼ばれる、長い製造プロセスだ。

 働いてくれる人が沢山いて、土地や工場など企業にとって安い条件で生産ができれば、消費者にとっても企業にとっても有難いことだ。ところが、思わぬ落とし穴もある。取引先が多く、複雑になるに従って、その材料の安全性や社会性が不透明となってしまうことだ。「食の安全」や産地の偽装などでも話題となったが、取引先がきちんとした事業を行なっているのか、環境、人権、なにより安全にまで配慮しているのかチェックする必要がある。

 ビジネス誌が英国の会社に行った、企業の代表取締役へのアンケート調査で面白い結果が出ている。「あなたの会社にとってのリスクは何ですか」という問いに対して、一位の「事業の中断」に続いて第2位が「評判」となっている。自動車や携帯電話を製造していれば、鉱物、食料品であれば、小麦やコーヒーなどの原材料が、きちんと生態系に配慮した形で調達されているのかどうかをチェックしなければ、思わぬところで足元をすくわれかねない。

 COP10支援実行委員会アドバイザー 名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授 香坂 玲

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)公式ウェブサイト


著者プロフィール

香坂 玲(こうさか・りょう)

静岡県生まれ。東京大学農学部卒業。ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国で修士、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。2006年からカナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、4月より現職の名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授(林業経済、環境政策論)。COP10支援実行委員会アドバイザー。国連大学高等研究所客員研究員を兼務し、里山の評価などに参画。

著書『いのちのつながり よく分かる生物多様性』<中日新聞社刊>発売中。

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