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生物多様性と企業の取り組み:モノづくり立国にとってのチャンス

 原油価格の乱高下や経済危機など、企業を取り巻く情勢は厳しさを増しているが、ここで歴史的な教訓を振り返りつつ、生物多様性との関連を考えてみよう。

  まず、70年代のオイルショック時という厳しい局面で、エネルギー消費、生産工程が大きく見直された。そして現在、企業の徹底した省エネルギーがもたらした日本(と西ドイツ)の復活プロセスは、「エコロジカル・モダナイゼーション」として、未だに欧米諸国から高い評価を受けている。特に、日本のモノづくりに対する努力はすさまじかったと、賞賛の声が上がるほどだ。

  次いで、80年代から90年代にかけて、原子力や石油といったエネルギー問題に続いて、熱帯雨林を中心とする生息域に注目がシフトした。1992年、リオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)では、気候変動よりも生態系や生物多様性関連の報道が多かったという指摘があるほどだ。

  現在の情勢に当てはめると、日本企業に対する世界の期待や関心が高いこと、温暖化問題の話が生活や生息域にシフトする可能性があることを歴史は示唆している。特に、温暖化の議論では、高度な科学による面積や排出など「量」の議論が、生活や生態系の劣化という「質」の議論へとシフトする過程において、生物多様性の果たす役割は大きい。同時に、気候という大気圏の変化も、実は生態圏、つまり地上での活動で変えていくことの大切さが認識されてこよう。日本企業も、オイルショックが苦境下での省エネの成功とすれば、近年の経済危機は、生態系やエネルギーの再生という成功となりうるのだ。

  さて、前回も申し上げたように、生物多様性とは、さまざまな種がいることと、そのつながりを示す。従って再生には、そのつながりを取り戻すため、地中や博物館など隔離した場での保管作業に加え、生息する場の保全も重要となる。同時に、多様性を支え、持続可能な利用形態である人間社会の地域や文化の維持も重要となる。

  2006年の生物多様性条約の会合では、生物多様性への活動が「最も出遅れているセクター」とされ、初めて民間部門の参画が決議された。それから3年。世界でも、2010年に愛知県名古屋市で開催される第10回締約国会議(COP10)に向けた動きを加速している。企業のイニシアティブへの参加、模範事例や経験の共有を促すビジネスケースの提供、自主ガイドラインの策定など具体的な動きが目立つ。底流には、これまでの製品やサービスの信頼、従業員や地域社会への配慮に加え、世界の貧困や格差に正面から取り組もうとする姿勢が読み取れる。国連の統計では1日1ドル以下で生活する貧困者は10〜12億人いる。その多くが、森林、海などの豊かな生態系からの恵みに依存した生活をしている。逆にそのバランスが崩れた時、都市や先進国に流入せざるを得ない状況に追い込まれるのだ。

  まだまだ本腰で取り組む企業や団体が限られている生物多様性だが、企業には二つのチャンスがあると考える。ひとつは、取り組む企業がまだ少ないがゆえの先行プレミアムと差別化の好機。もうひとつは、生態系や世界の貧困、そして希望(ホープ)を再生させるという“世界事業への貢献”というチャンスである。

 COP10支援実行委員会アドバイザー 名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授 香坂 玲

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)公式ウェブサイト


著者プロフィール

香坂 玲(こうさか・りょう)

静岡県生まれ。東京大学農学部卒業。ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国で修士、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。2006年からカナダ・モントリオールの国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、4月より現職の名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授(林業経済、環境政策論)。COP10支援実行委員会アドバイザー。国連大学高等研究所客員研究員を兼務し、里山の評価などに参画。

著書『いのちのつながり よく分かる生物多様性』<中日新聞社刊>発売中。

2016 愛知環境賞

第75回 中日農業賞

地球のいのち、つないでいこう

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