エコらむ

【より道 わき道 COP10 関口威人】

《会場レポート3》先見えぬ会議と「上関」のゆくえ

2010年10月23日

 18日に開会したCOP10。本会議ではやはり最大の懸案である「遺伝資源」の扱いをめぐって各国の対立が鮮明化。遺伝子組み換えのような一定の合意に達する「名古屋議定書」までこぎ着けられるかどうかが焦点です。一方、会場の外では日本のある地域が焦点となっている問題が強く訴えられ、世界の参加者を通じてじわじわと会場内にも波紋が広がってきていました。

 

 その地域とは「上関(かみのせき)」。山口県南東部の瀬戸内海に面した上関町のことです。その町の一画、瀬戸内に浮かぶ長島という島の「田ノ浦」地区に、中国電力による原子力発電所の建設が計画されています。

 この原発の是非について、あえてここでは触れません。現場に行った経験のない筆者は「触れられない」と言ったほうが正しいでしょう。

 しかし、その上関から名古屋まで「歩いてきた」という人たちの訴えには、耳を貸さないわけにはいきません。

 「生物多様性の残されたこの美しい島が危機にある。COP10を開きながら、経済発展のために原発を選ぼうとしている日本の現実を知ってもらいたい」

 名古屋国際会議場の一室で、山田俊尚さん(37)が英語で語りかけました。目を丸くしながら聞き入るのは、アメリカやインド、ブラジルなどからCOP10のために来日した正式な参加者たちです。

 東京在住の天台宗の僧侶でもある山田さんは今回、上関から2カ月以上をかけて歩きながら「7世代先」までの環境問題を訴える「7Generations walk」という運動を呼び掛けて名古屋にたどり着きました。その直後、COP10開会を控えた今月15日に中国電力が上関原発の海面埋め立て工事の準備に取りかかったという情報が入り、山田さんは国際会議場周辺で行われている生物多様性交流フェアの一画で「ハンガーストライキ」を始めました。

 「原発と断食」という異様なアピールは海外参加者の目にもとまり、会場内で無料配布されるNGOのニュースレター「eco」が20日付の1面にその活動を掲載。翌21日にはサイドイベントの一つに山田さんらが招かれ、海外参加者に直接訴えかける機会がつくられました。

 このサイドイベントは「Biodiversity & Climate Justice」と題され、生物多様性だけでなく気候変動も含めた環境問題と人権問題などが話し合われます。

 議長役を務めたアメリカの環境団体「グローバル・ジャスティス・エコロジー・プロジェクト」代表のアン・ピーターマンさんは「生物多様性のCOPでも、ここ数年は気候変動との関係が非常に大きな関心事になっている。原発はグリーンテクノロジーではない。米国でも直面している問題をシェアしておきたい」として、ブラジルのバイオ燃料生産の現状などとともに上関原発もテーマに取り上げることを認めました。

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 サイドイベントで原発問題について訴える鎌仲監督(中央の女性)と山田俊尚さんら

 日本側は原発予定地対岸の「祝島(いわいしま)」に暮らす人々らを追ったドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を今年4月に完成させた映画監督、鎌仲ひとみさんも同席。「上関では科学的な環境アセスメントがきちんと行われていない。海外でこうした問題を解決した例はないか」などと問い掛けると、海外の参加者からは「企業が強くプッシュしているのが驚き」「気候変動のグループと協力するべきだ」「非公式の場でもよいからこの会議場でもっと訴えてよい」などの意見やアドバイスが出されました。 

 事態は劇的に動きました。このサイドイベントの翌朝にはNGOのミーティングに山田さんらが招かれ、午後のプレナリー(本会議)ではNGOの代表としてCBD市民ネットの道家哲平さんらが声明を発表。このなかで「いま進行しつつある悲劇」として上関原発の計画について触れられたのです。

 本会議で世界に訴えられたことは一定の成果だとして周囲にすすめられ、山田さんは1週間ぶりに水を口にしたそうです。しかし現地では漁師らの反対行動のなかで工事が進められようとしています。

 本会議とともに、先行きが見通せない情勢となってきました。

プロフィール

関口威人(せきぐち・たけと):ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。97年、中日新聞社入社。北陸本社(金沢)整理部、四日市支局、名古屋本社社会部、文化部を経て2008年9月からフリー。防災、災害救援、環境、建築、自衛隊、育児などをテーマに名古屋を中心とした東海地方を走り回る。
著書『ぼくたちは何を失おうとしているのか−ホンネの生物多様性』<樹林舎叢書>発売中。

E-mail:sekiguchitaketo@gmail.com

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