エコらむ

【より道 わき道 COP10 関口威人】

「ひ孫の代まで」守る加子母の森の挑戦

2010年06月25日

  前回に引き続き「森」に入りました。岐阜県中津川市の加子母。「かしも」と読みます。伊勢神宮の式年遷宮や名古屋城本丸御殿再建のための用材も切り出される、全国的なヒノキの名産地です。しかし国内林業全体が落ち込むなか、ここでも「木の需要がない」「採算がとれない」という先のみえない不安が広がっています。親から子へ、子から孫へと、当然のように引き継がれてきた森はもう守ることができないのでしょうか。大都会との連携から、その解決の糸口を探ろうという試みが始まっていました。

  2005年に中津川市に編入合併された旧加子母村地域は、面積約114平方キロメートルのうち93%以上が森林で、その7割近くがヒノキの人工林。特に近年は「東濃ヒノキ」としてブランド化され、多くの村民が林業に携わってきました。

 その旧村の中心部からマイクロバスに揺られ、山の奥の奥へ。標高は実に約1000メートル。クマやカモシカの姿も見える深い森の、少し開けたところでバスを降ります。透き通った清流の沢にかかる橋の名は「美林橋」。

 「あのあたりが伊勢神宮の御用材を伐採した林ですね」

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 加子母森林組合の内木組合長(右から2人目)の案内で「神宮美林」を見学する参加者
 
 橋のたもとから見える山の中腹を指して、加子母森林組合の内木(ないき)篤志組合長が説明しました。
 
 周りからわきあがる「へえー」という声。同時にその木をどう切り倒すのか、どうやって運搬するのか、などの質問が次々と飛び出します。
  
 一行は「グリーン・プレスクラブ」と称する環境ジャーナリストたち。6月23日から24日にかけ、約20人が主に東京からバスに乗って岐阜県入りし、それぞれの視点から森や林業の現状を「取材」しに来たのです。
 
  遷宮用の木材を供給する国有林は「神宮美林」「木曽ヒノキ備林」などと呼ばれ、国によって厳しく管理されています。普段は一般の立ち入りが制限されるこのエリアの見学が、今回は特別に許可されました。
 
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 チェーンソーでスギの立木を伐採する組合員
 
 一行は他に組合が管理する民有地での伐採の現場や、住宅部材を機械加工するプレカット工場などを見学しました。
 
 樹齢50年以上のスギの木をチェーンソーでダイナミックに切り倒していくさまを目の当たりにした後、「これで4メートルの丸太を4本切り出しても価格はぜんぶで2万円以下。ヒノキでも直径14センチ程度の丸太はせいぜい1本500円です」と説明されると、
 
「これだけ大変な作業なのに」「やっている人たちも悲しくなるのではないか」
 
などと考え込みます。
 
 「その500円を何とか1000円にできないかと努力しています」という内木組合長には、
 
「現状を知れば消費者はもっとお金を出すのでは」「感度の高いデザイナーと組んで、海外でも木工品を売り出したら」と提案する参加者もいました。
 
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 コンピューター制御された機械が住宅部材を加工するプレカット工場
 
  加子母森林組合は東京の建設会社と業務提携し、「加子母産総ヒノキ住宅」を首都圏の消費者向けに売り出す計画を進めています。これは国の農商工連携事業として全面的にサポートされます。
 
 その一環として昨年からこうしたツアーを一般向けに企画し、都会の消費者を加子母の森に案内。林業の現状を知ってもらったうえで、森林の再生に向けた協力を呼び掛けているのです。
 
 一方で、森林組合も従来の発想を超えた自己改革に乗り出さざるを得なくなっています。
 
 これまでは住宅用の柱材の供給に特化し、ある林を丸ごと刈り取る「皆伐」と植林を繰り返してきたため、日本中で同じような樹齢の林が広がっていました。
 
 加子母ではこうしたやり方を見直し、一部の木を残しながら段階的に伐採と植林を進め、さまざまな世代の木が混在する森をつくろうとしています。
 
 より「多様性」を確保することで、森を安定させ、柱材だけでなくさまざまなニーズに対応できる林業を目指そうという試みです。
 
 内木組合長は「これまではおじいさんが植えた木を孫が切って生計を立てていました。ところが今はおやじの世代がいくら木を切っても売れません。これをどの世代も、できれば4世代にわたって収穫できるようにします。実際に成果が出るのは50年も100年も先の話になってしまいますが、 こういう時代だからこそ夢をもって山づくりしないといけないんです」と訴えます。
 
 国内林業の課題や可能性については、同じ当サイトの「エコらむ」を執筆している林材ライターの赤堀楠雄さんらが論じていますが、筆者のように林業を専門にしていない者にとって、森や林業に対する見方はどれが正解かわからないほどいろいろにあって戸惑います。
 
 まずは一つ一つの現場に入ること。そして林業関係者の話と「森の声」に耳を傾けることが大切なのだと実感するツアーでした。

 

プロフィール

関口威人(せきぐち・たけと):ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。97年、中日新聞社入社。北陸本社(金沢)整理部、四日市支局、名古屋本社社会部、文化部を経て2008年9月からフリー。防災、災害救援、環境、建築、自衛隊、育児などをテーマに名古屋を中心とした東海地方を走り回る。
著書『ぼくたちは何を失おうとしているのか−ホンネの生物多様性』<樹林舎叢書>発売中。

E-mail:sekiguchitaketo@gmail.com

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