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【いろんないきものの話 五箇公一】

パソー熱帯雨林のダニ

2014年01月27日

 遅ればせながら、みなさま、明けましておめでとうございます。今年も中日新聞WEBコラムをご愛顧頂きますようお願い申し上げます。
 このコラム「いろんないきものの話」も、2010年1月に掲載を開始してから今年で4年目となります。思いついたように書いてきたので、本来の月に1回というペースも守られず、内容も自分の知っている範囲、というか、自分が経験したことぐらいしか書いてこず、コラムというには、あまりに自己中で偏重なものになっていることに、改めて申し訳なく思いつつも、恐らく今年もこの調子で書き進めて行くことになると思いますので、ご愛読頂いている皆様方には、今年も引き続き、お付き合い頂けましたら幸いです・・・
 
 

今年1回目のコラムは、昨年の11月に行って来たマレーシアでの調査の話から始めたいと思う。以前にもこのコラムで紹介したが、現在、国立環境 研究所では、マレーシアのパソー森林保護区において、熱帯雨林の多様性や機能に関する調査研究を進めている。我々、研究チームも熱帯雨林における生物多様 性の評価と人為的な環境改変による多様性の変化についての調査を昨年より開始している。

 
 昨年11月に、 3度目となる調査に赴いた。今回は、ダニ研究の仲間で、土壌生物の専門家でもあるS先生にも同行頂き、パソー熱帯林の土壌生物相を調べる方法を検討するこ ととした。我々の研究目的は、森林生態系の物質循環において分解者として重要な役割を担う土壌生物の多様性や機能を評価するとともに、森が切られて人為的 撹乱地になることで、どれだけ土壌生物の多様性や機能が変化してしまうのか、を明らかにすることであり、今回、土壌生物の調査方法についてS先生に現場を 見て頂いて、アドバイスを受けるためにパソーにやってきた。
 
 土壌生物を集めるには、ツルグレンという装置を使う。手法として、以下の手順をふむ。
1) 森林の林床からリターと呼ばれる落ち葉が積もった層とその下にある土壌の表層を、一定の面積を決めて採集する。
2) 紙袋にリターや土を入れて、潰さないようにして持ち帰る。紙袋にするのは土壌生物が窒息死しないようにするため。
3) 実験棟で、ツルグレン装置に採集してきた落ち葉・土壌を乗せ、装置の受け口にアルコールの入った瓶を置く。
4) 落ち葉・土壌の乾燥に伴って、中にいた土壌生物(動物性のもののみ)が下に移動して、アルコール便に落ちる。
5) アルコール標本を実験室に持ち帰り、顕微鏡観察する。
 今回は、自然保護林エリアの林床と、そのエリアの外側に広がる油ヤシ畑(プランテーション)の林床、それぞれから回収したリター・土壌を用いて、ツルグレン装置による土壌生物の採集を行い、両エリア間でどれくらい土壌生物相が違うのかを比較してみた。
 
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                       熱帯自然林の林床風景
 
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                        プランテーション林床
 
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         熱帯雨林における林床の土壌採集風景
 
  写真を見ても分かる通り、自然林の林床とプランテーションの林床では、リターの量も、水分量も全然違うので、詳しく調査するまでもなく、生物量には大きな 差があるであろうと予想はつくのだが、実際に採集された昆虫やダニの数を顕微鏡で観察すると、その多様性の差に改めて驚かされる。
  様々な植物が生い茂り、多様な生息空間と餌資源が提供されている自然林内には多様性の高い生態系が展開し、均一的な作物を植えているプランテーションでは 多様性がいっぺんに低くなる。ある意味あたりまえの理屈をデータによって定量化し、みんなが分かるようにする。そして、生態系システムの安定性・持続性 が、高い生物多様性によって維持されていることを、科学的に証明して生物多様性の重要性を理解してもらう・・・これが本研究のミッションとなる。
  
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     ツルグレン装置に、リターや土壌を乗せて、乾燥させ、
     下のアルコール瓶に生物群を追い込む。
 
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     ツルグレンで採集された熱帯林エリア林床のダニの仲間。様々な種類が存在する。
 
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     ツルグレンによって熱帯林エリア林床から採集されたアリ類。やはり種数が多い。
 


       プランテーション・エリア林床から採集されたダニ類。個体数も種数も少ない。
 
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      プランテーションエリア林床で採集されたアリ類。1種類しか確認できなかった。
 
  多様性の評価のためには、まず種数を測る必要があり、そのためには種の同定が必要となり、熱帯林の土壌生物のインベントリー作成も必須となる。そのために は、まず分類学者を揃える必要がある。日本国内でも、最近は分類学を志す研究者の数が減ってきており、生物多様性評価の分野においても深刻な問題となって きている。きれいな植物や可愛い動物を保護する研究だけでなく、地道に生き物の形を観察して、分類していく研究の重要性を、今後は国としても是非クローズ アップして、研究者育成に力を入れてもらいたい。
 
 今年も国内の外来種防除や農薬(ネオニコチノイド)の リスク評価研究の合間を縫って、ここマレーシアに何回か調査に訪れることになるであろう。それにしても、土壌のダニたちのなんと美しいことか!特に、自然 林から採集されたダニをシャーレに広げた様は、まるで宝石箱をひっくり返したかのようだ。この美しさだけでも、十分に生物多様性の素晴らしさを伝えるのに 十分な気がしているのは、筆者だけだろうか・・これからもこうした美しいダニや昆虫たちを見られることを楽しみの一つとして、研究に邁進したいと思う。
 
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    熱帯林の林床から見つかったイトダニの1種。美しい・・・
 
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                 熱帯林の林床で採集されたカニムシの仲間
 
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                     ザトウムシの仲間でしょうか・・?
 
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              ネッタイタマヤスデ。丸くなった姿がきれい。
 
  さて、1回目のコラムということで、今年の年賀状も最後に添付しておきたいと思う。今年のデザインは、アワケナガハダニ。とっても小さい、植物寄生のダニ だが、その形状が実に奇抜で斬新。体毛がまるでうちわのように平べったく展開していて、お尻に長い毛が並んで生えている・・・。この形を髪飾りに見立て て、国際ダニ学会のロゴのデザインにも取り入れた。なぜ舞妓さんの髪飾りというデザインにしたかといえば、この夏、京都で国際ダニ学会が開催されるからで ある。ダニに少しでも関心のある方は、是非ともご参加下さい・・! 
 
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                         今年の年賀状です。
 

 

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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