エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

カマキリの思い出

2012年10月31日

 夏の終わり、友人からオオカマキリの写真がメールで送られてきた。網戸に張り付いて部屋の中をのぞいていた、こいつ、お前の使いじゃないのか?という妙な因縁(^_^;)とともに送られてきたその写真をみて、子どもの頃の自分を急に懐かしく思い出した。

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       友人が送ってくれた「覗き見犯」のオオカマキリの写

 小学生の頃、カマキリに妙にハマった時期があった。富山の田舎に住んでいたので、校庭や空き地の草むらに行けば、カマキリはいくらでも採集できた。夏になると、片っ端からカマキリを採集して自宅に持ち帰り、飼育していた。当時、部屋の中には、カマキリ飼育のための水槽ケースが尋常じゃない数で並んでいたと記憶している。
 集めるといっても、蝶やトンボのように種類が多い訳ではなく、自分が住んでたあたりでは、オオカマキリ、チョウセンカマキリ、ハラビロカマキリ、コカマキリの4種ぐらいしか採れない。実際、大学に入って昆虫学研究室の専攻を決めたときも、大学の先生に「子どもの頃は、どんな昆虫集めてた?」と聞かれて、カマキリです、なんて答えたら、「そんなに種類もいないのに、面白いのか?」といわれたのを思い出す。多くの場合、昆虫少年といえば、様々な種の標本を集めるのが基本スタイルと思われているらしく、自分はどちらかというと、そういうスタイルの昆虫少年ではなかった。
 というか、別に昆虫だけが好きだった訳ではなく、ザリガニやカナヘビ、プランクトンなどなど、小動物の飼育と観察が好きな飼育マニアだった。カマキリもその独特のフォルムと動き、そして生活史が、特段に自分の興味を引いたのである。

 幼虫の時から採集して、部屋の中で脱皮をさせて成長して行くさまを観察したり、生きた昆虫を餌として与えて、それをパッと捕らえて食べる様を見て、その格好よさにホレボレしたり、とにかく、その生き様を一日中飽きもせずに観察していた。

 ただ、カマキリの飼育で問題となるのが餌である。カマキリは、映画ジュラシックパークに出てくるティラノサウルスレックスの設定同様、「動く生き餌」にしか興味を示さない。だから、定期的に生きた昆虫を外から採集して来なくてはならなかった。これは結構、面倒な作業である。学校の宿題だってあるし、そうしょっちゅう虫取りに興じているわけにはいかない・・
 そこで、ものは試しと、同じ動物性タンパクだからと、チーズの切れ端に糸を結んで、カマキリの前に垂らして生きた昆虫に見立てて、動かしてみせたら、パッと食い付いて、むしゃむしゃと食べ始めた。「えーー!カマキリのくせにチーズ喰うんだ!?」と(自分で与えておきながら)ちょっと新鮮な驚きを感じつつも、これで餌用の虫取りから解放されると思うと、ちょっと嬉しかった(ただし、家人にはバレないようにチーズをくすねる必要があった・・)
 その後はさらに横着して、カマキリをつまみ上げて、暴れるそいつの口にチーズを押し付けてやって、「お、食い物じゃん」とカマキリが気付いて食べる、という給餌方法をとるようになった。チーズ以外にもうどんとか、卵焼きを食べさせたこともあったが、基本的に野菜以外なら人間が食べるものなら何でも食べられるようであった。

 オスとメスを交尾させて、卵を産ませることもしていた。一度、オオカマキリのメスにチョウセンカマキリのオスを乗っけて交尾させたこともある。「へーっ!別種でもちゃんと交尾するんだ!」と、これまた、自分でやっておきながら新鮮な驚きを覚えたことがある。思えば、ダニ学に目覚めたのもダニの交尾を観察して以来のこと。研究所に入ってからも、外来種の生態リスクとしてマルハナバチやクワガタムシの種間交雑を研究しているが、子どもの頃から、生物の交尾というものに強い関心を抱いていたのかもしれない・・結局、このカマキリの種間交雑では、卵嚢(あのカマキリ独特の泡あわの卵が入った袋)は作られたが、卵が孵(かえ)ることはなかった。種が違うので授精しなかったか、授精しても胚発育できなかったかのいずれかと考えられた。

 こんな具合に、子ども時代のカマキリの飼育は、現在の生物学者としての自分の布石だったと言えるかもしれない。その意味でも、カマキリという昆虫は自分にとって、今でも特別な存在なのである。覗き見されたという、写メを送ってくれた友人には、「ハイ、そいつはオレの分身です!」と答えたやった。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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