エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

宮古島再び

2012年09月30日

 昨年に引き続き、今年もこの9月に宮古島に渡った。昨年はヒラタクワガタを採集しに来たのだが、今年は完全にお休みをとって観光目的で来た。天気予報も外れて滞在中の2日間晴天に恵まれ、青い海と青い空を堪能することが出来た。

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   今年も真っ青な海を見ることが出来た。砂浜のすぐ近くまでサンゴが広がっているのが見える。    

 この島は、他の南西諸島同様、島の面積の大部分がサトウキビ畑として開発されているのだが、川が1本もないため、海への土壌流出も少なく、海水の透明度が非常に高い。美しいサンゴも沿岸にたくさん残っていて、シュノーケリングやダイビングにはもってこいの場所である。筆者にとっても、海に浮きながら、サンゴの上をなめるように移動して色とりどりの熱帯魚が泳いでいるさまを観察するのは何よりも楽しい。

 昨年9月のブログでも書いたが、この島の生物相は大変変わっていて、沖縄島と石垣島に挟まれる位置に存在する島だが、両島に生息しているハブがこの島では存在しない。なので、約1万5,000年前に、この島は完全に水没して、そのときにハブも含めて生きていた陸上生物の多くが流されて、一度死滅したのではないかという説もある。
 しかし、この島には今でも、美しい緑色の体色をしたミヤコカナヘビや、ハサミがいかついミヤコサワガニなどの固有種が生息している。さらに大陸の極東エリアに生息するノロジカの仲間とされるミヤコノロジカという固有種の化石や、体長2.5メートルを超える巨大なハブの化石も発見されている。宮古島が過去に完全に水没したか否かに付いては、まだ大いに議論の余地がある。

 さて、宮古島には、クワガタムシも生息していないとされていた。実際、島を訪れて住民の方々、特に昆虫に詳しい方等に話を聞いても、クワガタムシは生息していなかった、という。ところが最近、宮古島内でヒラタクワガタがかなりの数で捕獲されるようになった。過去には生息していなかったとすれば、これらのヒラタクワガタは、恐らく島の外から持ち込まれた外来種と予測される。
 実際に地元のホームセンターに行ってみると、どっさりとクワガタムシの飼育キットが陳列されているのを見ることが出来た。筆者が見に行ったときには、クワガタムシの生体そのものは販売されていなかったが、夏休み中にはたくさんのクワガタムシが入荷され、あっという間に売り切れになるということを店員さんから教えてもらった。こうして販売されるクワガタムシの中にヒラタクワガタも含まれており、飼育個体が逃げ出して野生化している可能性が考えられた。

 そこで昨年は、宮古島のヒラタクワガタの正体を突き止めるべく、マンゴーを餌に宮古島の森林内に生息しているヒラタクワガタを採集して、研究所に持ち帰ったのである。そして、この宮古島のヒラタクワガタの出所を突き止めようと、DNAの変異を調べた。ちょうど、今回、宮古島に再訪する直前に昆虫学会でその結果を報告していたので、そのことをコラムにも書かなくては・・と宮古島の海の上に浮かんで思いついた。

 結論から言うと、宮古島で捕獲したヒラタクワガタのDNAは、これまでに日本列島で得られたいずれの地域個体群のDNAとも一致しなかった。つまり、実はまだ、宮古島のヒラタクワガタの正体はつかめていない・・。一番近いDNAタイプを持っている集団は、沖縄島のオキナワヒラタクワガタであった。ただし、近いというだけで、塩基配列情報の差を統計処理すると、明らかに宮古島ヒラタクワガタ集団は、オキナワヒラタクワガタ集団とは異なるという結果が得られる。

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                    沖縄列島および宮古島のヒラタクワガタ集団のミトコンドリアDNA系統樹

             DNAの塩基配列情報に基づき個体間の遺伝的距離(遺伝的に近いか遠いか)を計算して、
             家系図のように系統関係を表している。宮古島のヒラタクワガタ集団 は、沖縄島およびその

             属島の集団と近い親戚関係にあるものの、独自の遺伝子組成をもつ、独立した集団として

             存在しているのが分かる。

 沖縄には沖縄島以外に周辺に小さな離島が存在するので、これらの離島集団の中に、宮古島ヒラタクワガタと同一のDNAをもつ集団が存在するのかもしれない、ということで、沖縄島の属島の伊平屋島からもヒラタクワガタを採集して、DNAを調べてみた。すると伊平屋島の集団は確かに沖縄島の集団とは異なるDNAを持っていたが、宮古島ヒラタクワガタは、この伊平屋島集団とも一致しなかった。

 今回の結果から、ヒラタクワガタは沖縄諸島の中でも、小さな島ごとに異なるDNAをもつ集団に細分化していることが予測され、恐らく、それらの分集団のいずれかに、宮古島ヒラタクワガタと同一のDNA集団が存在するのではないかと考えられた。

 しかし、考え方によっては別のシナリオも想定される。それは、宮古島のヒラタクワガタは実はもともと宮古島に生息している固有集団かも知れない、ということである。実際、ペット用商品としてヒラタクワガタを宮古島に持ち込むために、そんなマイナーな沖縄島の属島の集団をわざわざ採集して増殖するなんてことがなされるであろうか?
 いずれにせよ、一度は夏休みが始まるまえの宮古島を訪れ、商品として販売されているヒラタクワガタを購入してDNAを調べる必要があるだろうし、沖縄島の属島のヒラタクワガタ集団のDNA変異も把握する必要があるであろう。当分は、このクワガタ・ミステリーを言い訳に、宮古島に来る機会をまた来年作れるとすれば、宮古島フリークの自分としては、正直嬉しい、などと考えながら、サンゴの中で優雅に泳ぐ熱帯魚の群れを眺めながら洋上を漂うのであった。。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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