エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

アルゼンチンアリとの仁義なき闘い

2012年08月30日

   以前にこのコラムで、アルゼンチンアリという外来アリが世界中に侵入し、日本においてもその分布が広がりつつあることを紹介した(「外来アリの仁義なき闘い」)。あのコラムを執筆した直後に、この外来アリが東京湾にも侵入していることが発覚した。場所は大量のコンテナが海外から運び込まれる埠頭の一角。周辺の工場街にはびこり、一部は海浜公園の中にも侵入しているという状況だった。ari2-1.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                           ベイト剤に群がるアルゼンチンアリ

 遂に関東にも侵入してきた、ということで、茨城に拠点を構える当研究所も、この侵入個体群の駆除に乗り出すこととなった。これまでにも、広島や、愛知、岐 阜等の侵入地域において行政主体の駆除事業が進められてきているが、いずれも成功には至っていない。根本的な原因としては、防除予算が国家予算でありがち な単年度制で、なおかつ事業の請負が競争入札によって決められるので、予算が降りる時期が下手すれば年度末ギリギリになったりして、肝心のアリの活動時期 に何もできない、といったことが繰り返されてきたからである。

 もちろん、地域住民が自主的に駆除をしているケースもあるが、駆除の仕方がよくわからない、いつまでやればいいのかわからない、など、情報不足で十分な手が打てないケースがほとんど。そこで当研究所では、確実にアルゼンチンアリの個体数を減らし、最終的に根絶まで導くためのマニュアル開発を目指して、東京埠頭の個体群をモデルとして防除試験を実施することにした。ari2-2.jpg        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            埠頭内の調査風景。羽田空港に分刻みで着陸する飛行機が見える。また新しい外来種が
  
運ばれてきてるのかも・・

 アルゼンチンアリに効果のある薬剤は既に開発されている。この薬剤は、アリに食べられたり、アリの皮膚に付着しても、すぐに死ぬことはなく、ゆっくりと効く性質をもっており、餌に混ぜて与えることで、巣に持ち帰らせて、巣内の個体全体に薬剤を行き渡らせ、最終的に巣ごと退治することができる。ベイト剤と呼ばれる薬剤が練り込まれた「毒餌」が商品として完成している。
 つまり、アルゼンチンアリを駆除するためのツールは、すでに準備されているのだが、このツールの利用法が十分に整備できていない、というのが我が国における、この外来アリ防除の検討課題ということになる。

 我々は、東京埠頭に生息するアルゼンチンアリ集団について、いくつかの区画に分けて、それぞれに薬剤の投下量を変更して、薬剤の防除効果を確認することで、防除に必要な薬剤量を特定することとした。ベイト剤が入った小型容器を毎月交換して、さらに粘着トラップを設置して、トラップにかかったアリの数から個体数の変動をモニタリングするという作業を2011年の春から繰り返して行ってきた。

 ところが、最初の1年間は、まさに絶望と落胆にくれる日々が続いた。ベイト剤を設置したエリアでも、なかなかアルゼンチンアリの数が減ってくれない。いや、確実に全体の数は減っているが、必ずどこか1カ所に、薬の影響を逃れて集合して、巨大な巣を維持しているのである。彼らは、地面に穴を掘って巣を作るのではなく、地表で遮蔽物の陰等に集まって、そこを拠点として活動する。その場所の環境が悪くなれば簡単に移動して、また新しい拠点をつくる。まさに、動く黒い絨毯のような行動パターンをとる。だから薬剤で減らしたと思っていたら、じつは違うところで巣を作っていた、なんてことが繰り返されるのである。

 効果がなかなか上がらない中、それでも諦めずに夏の炎天下も冬の寒空のもとでも、我々は薬剤の設置と交換を繰り返した。その結果、実験開始から2年目の今年の夏には、アルゼンチンアリの発生量が劇的に減り、代わりに在来のアリ類が増加していることが明らかとなった。エリアによっては、モニタリングで、全くアルゼンチンアリが検出されず、この状況が続けば、根絶したと判定できると思われる。対照的に、薬剤をおいていないエリアでは、アルゼンチンアリは大量発生を続けていた。。
 埠頭で働く人たちも、このアリの大発生には頭を痛めていたのだが(弁当に群がるなどの被害)、「最近は、本当に減った」という声が聞かれるようになった。確実にアルゼンチンアリ駆除成功へと近づいてきている。

 ari2-3.jpg

 

 

 

 

                       試験エリアごとのアリ類個体数変動。コントロール(無農薬)エリアでは、ア ルゼンチンアリが
    夏に猛烈に増えて、在来アリ類の発生を押させているが、薬剤処理区では、アルゼンチンアリ
    の発生が抑えられ、在来アリの個体数が復活して いる。さらにその効果は1年目より2年目で
    強く出ている。(国立環境研究所・井上真紀 博士作図)


 今回の調査で明らかとなったことは、外来種の防除には集中と継続が必要である、ということである。沖縄・奄美のマングース防除も、最初は困難と思われていたが、研究者と地元のマングース・バスターズ(捕獲作業員)の継続的な努力のおかげで、確実にその数を減らしている。
 肝心なことは、外来種の防除は、その数が減って低密度になってからが本番だということである。数が減れば、薬の効果も届きにくくなる。確実にその数がゼロになったという確信を得るまでは、防除の手をゆるめてはいけない。現在も我々は月1回の防除作業を継続している。

 いずれ、このブログでも、アルゼンチンアリの根絶宣言を発表できることを願っている。なお、この調査事業で陣頭指揮にあたっているのは、当研究所の若手女性研究員である。毎月、筆者を含め、作業に集まるおじさん連中を相手に的確な指示を与えて、作業にあたらせる姿は、さながら、女王アリを彷彿させる。。これからも我々おじさんたちは働きアリとして、防除に勤しむ。もっとも本当のアリの世界では、働きアリはオスではなくメスなのだが。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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