エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

恐竜プラモデルと地方経済

2012年01月10日

 2012年明けましておめでとう御座います。

 はやいもので、今年でこのコラムも3年目を迎える。自分自身、生き物の進化や生き様に、強い関心と興味があって、生物学者として生業を立ててはいるものの、正直、あらゆる生き物に精通している訳ではなく、まさに、徒然なるまま自分の思いつきを書き綴ってきた。かような拙い文章に、ここまでご愛顧頂いた読者の皆様方には、心から感謝申し上げます。今年も、どこまで続くかは定かではないが、編集者の方が許して下さる限り、変わらず徒然なるままに書き続けていきたいと思いますので、何卒宜しくお願い致します。

 お正月は故郷の富山で過ごした。富山に帰ると必ず立ち寄るプラモデル屋がある。このお店は自分が小学生のときから通ったなじみの店。(実は、筆者は子供の頃から大のプラモデル・ファンなのである。。)普通はプラモデルと言えば、戦車や戦闘機等のミリタリーものか、最近流行の戦闘ロボットものが主流なのだが、このお店はとても変わっていて、国内外のメーカーが作っている恐竜や野生動物、あるいはSF映画のキャラクターなどをモチーフにした、かなり変わったレア商品を取り揃えている。自分も、このマニアックな世界に子供の頃にすっかりはまってしまい、以来、常連となっているのである。最近、子どもの頃に売り出されて、かなり以前に廃盤となっていた恐竜プラモの埋蔵品や復刻版が再び流通するようになり、このお店にもよく陳列されるようになった。休暇で田舎に帰る度に、そうした「掘り出し物」を見つけて購入するのが楽しみなのである。

 そして、つい先日、40年ほど前に販売されていたアメリカ製のティラノサウルスの巨大なプラモデルを入手することができた。すると、そのプラモデルのフォルムは、いわゆる、「ゴジラ型」といわれる、尻尾を地面にのせて引きずって歩いている姿勢だった。これを見て、思わず「恐竜学」の時代の差を感じずにはいられなかった。恐竜に興味がない人でも、ティラノサウルスの復元姿勢が、今と昔では違うことを知っている人は多いのではないだろうか?かつて二足歩行する恐竜は、このティラノサウルスを含めて、全て尻尾を引きずって歩く姿勢で復元されていた。そして、この姿勢をモチーフにして、あの有名な怪獣ゴジラも造形されたのである。

 ところが近年、生体力学の観点から、このゴジラ型の姿勢は、尻尾が体を引っ張ってしまい、極めて運動効率が悪く、実は、体を水平にして、尻尾もその延長で水平にピンと伸びて、巨大な頭部と尻尾でバランスを取って歩行していたと現在は考えられている。この姿勢によって、恐竜は素早く動くことも可能になったという説もある。今では、ほとんどのティラノサウルスの復元モデルや復元図は、このバランス型の姿勢をとっている。同じく4足歩行の恐竜たちも、尻尾を水平に延ばした姿勢で復元されるようになった。当然、現代の恐竜プラモもこの新しい姿勢で製作されている。

mukashi.jpg
  30年以上昔のティラノサウルスのプラモデルのパッケージ。
  ゴジラ型に復元さSれている。

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 現在のアロサウルスの復元模型。アロサウルスはティラノサウルスよりも古い

 時代の肉食恐竜であるが、ティラノサウルスも同じ姿勢で復元されている

 その他、生態工学と合わせて解剖学や生理学の進歩から、ティラノザウルスについては、実は走る速度がそんなに速くなかったとする説が出る一方で、いや、実は時速50kmという高速で走れたとする説も出ている。さらには化石の一部から羽毛の痕跡が見つかり、体が羽毛で覆われていたのではないかという学説も出てきた。最近のティラノサウルスの復元図の中にはライオンのたてがみみたいなものを生やしたものまである。

 そんな中で、個人的にはどうしても承服し難い学説が、巨大な肉食恐竜ティラノサウルスが、かつて想像されていたような凶暴なハンターではなく、他の恐竜の死体を食べていた、いわゆる腐食者(スカベンジャー)だったのではないかというものである。この精悍なフォルムからは、どうしてもティラノサウルスには、百獣の王ライオンのような、強力な恐竜の王であってほしい、と願ってしまうのだが、それはあくまでも人間目線の願望であり、科学的な分析をすればそういう説も成り立つというのは事実のようだ。ただし、今でも新しいデータが続々と出てきており、ティラノサウルスの真の姿については、まだまだ議論の余地がありそうである。

 6,500万年も昔に滅んでしまった恐竜の歴史とその生き様を辿るには、化石標本だけが頼りである。この限られた痕跡をもとに、解剖学、生理学、生化学、そして生態学の進歩とともに、人間が復元する恐竜の姿が、刻一刻と変化していく様は、まるで人間の科学と恐竜の共進化をみているような錯覚をもたらしてくれる。1億6,000万年以上もこの地球上を支配してきた恐竜たちは、隕石の衝突がもたらした気候変動によって、一斉にその姿を消してしまったという。そして恐竜の末裔としてこの地上に生き残ったのが、鳥たちだという。空を飛び交うハトをみて、これがあの巨大な恐竜たちの子孫なんだ、と、思うと、生物進化の妙を感じずにはいられない。

 さて、いきなり古生物学の話にすっとんでしまったが、恐竜への興味や関心も、この行きつけのプラモ屋で養われたものである。自分にとって進化学のメッカである大事な店屋ではあるが、こんな変わったプラモ屋がこんな田舎町にあって、採算が合うのだろうか?と思わず考えてしまう。確かに自分が子ども時代は、このまちもたくさんの小中学生が溢れ、商店街もこのプラモ屋も賑わっていた。それが今では、高齢化・過疎化が進み、まちを歩く人もまばらである。何処の地方都市とも変わらぬ経済状態にある。しかし、変わっている=貴重なお店として、このお店には今でもわざわざ遠方から訪れる人が後を絶えないという。こういうお店があるというだけでも、この田舎町に人が来てくれる。

 似たような話で、富山県に氷見市という漁港の町があるが、ここで食べる日本海の幸、特に刺身や寿司は他のどこでも食べられない一品として人気があり、わざわざ大阪や東京から高速道路に乗って食べに来る人が数多いと聞く。確かに自分も富山に帰る度に地元の食材を口にするが、水とコメと魚と酒の味は最高だと実感する。しかも同じものが東京でも手に入るのだが、東京で口にするのとは味が全然違う。富山の食材は富山で食べて初めてその味を知ることができると感じる。

 間もなく富山にも新幹線が開通する。地元の人たちは期待半分、不安半分である。アクセスが良くなる分、人材と経済が流入するのか、逆に、流出するのか、まさに地元経済の運命の分かれ道である。地方経済の衰退が叫ばれる今日、中央から地方への経済逆流を目指す上で、「この地方でしか楽しめない、味わえない」という地方の独自性を如何に発掘して、育むか、ということが結構重要な鍵となるような気がした。

 と、いうわけで、お正月に購入したプラモデルを眺めて、酒を飲みながら、徒然なるままに思いを書き綴ってみた。いささか脈絡のない新年第一弾のコラムとなってしまったが、そこはお正月のめでたさに免じてご容赦頂ければ幸いである。。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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