エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

宮古島クワガタ巡り

2011年09月09日

先日、9月頭に休暇をとって宮古島に渡った。今年の冬に講演会で呼ばれて、初めてこの島に行ったのだが、海の美しさと食べ物のおいしさ、そしてサトウキビ畑が広がる独特の風景にすっかり魅了されてしまって、ぜひとも、もう一度来たいと思っていたのだ。夏の宮古島は、冬のとき以上に太陽がまぶしく、海も青く輝き、心が躍るのを抑えることはできなかった。

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                                        宮古島の青い海

 レンタカーを借りて島中の海を巡り、行く先々でシュノーケリングを楽しんだ。すっきりと澄み渡る海中で、珊瑚の森とそこで戯れるように泳ぎ回る色とりどりの魚たちをみて、まさに生の「生物多様性」を実感。あまりにきれいな海なので沖に出ると、サメに襲われるケースがあるという。さらにウミヘビや毒クラゲも泳いでいることがある。生物多様性とは美しくもあり、危険でもあることも感じさせられる。
 そして、島での食事も、沖縄料理、鉄板焼き、イタリアン、ギリシャ料理とジャンルはバリエーション豊かに楽しませていただいたが、材料はいずれも島特産の魚貝や野菜をふんだんに使ったもので、これもまた食の固有性と多様性を感じずにはいられなかった。いろいろな意味で自然の恵みの有り難さを感じられる島である。

 ここまで書くと、まるで旅行会社の宣伝みたいだが、実は今回の旅行には、もうひとつ、研究のうえでも重要な目的があった。それは、「クワガタムシ採集」であった。「なんだ、昆虫採集かよ。結局遊びに行ったんじゃん!」て、言い返されそうだが、そうではない。

 宮古島は南西諸島の中でも独特の生物相を構成しており、特に、先島諸島や沖縄、奄美に生息しているハブがこの島にだけは生息していない。同様に、他の南西諸島には生息しているクワガタムシは、この島には生息しない。このように独特の生物相を形成している背景には、島自体が平べったく、標高が低いため(最高地点で115メートル)、過去に海面上昇によって島全体が水没してハブやクワガタが絶滅したのではないか、という説もあるが、一方でミヤコヒキガエルやミヤコカナヘビ、ミヤコニイニイ(セミ)など、島固有の生物も棲息しており、さらには、絶滅したミヤコノロジカという大型の固有シカの化石も見つかっており、この水没説については疑問も指摘されている。
 いずれにしても、その生物相の固有性には、まだ未知の部分が多く、我々生物学者にとっても貴重な研究対象といっていい。ところが近年、この島にいなかったはずのヒラタクワガタが、かなりの数採れるようになったという報告が寄せられるようになった。実際に冬に講演会で訪れた際に、島の人から話を聞くと、確かに昔は1匹も採れなかったが、最近ではたくさん採れるようになった、という話を聞いた。

 この話を聞いて、島外から持ち込まれたクワガタムシが野生化しているのではないかと予想された。もともとそうした噂はクワガタムシ愛好家の間でも話題になっていた。さらに島の人から「夏休みになると、ホームセンターでクワガタムシがたくさん売られている」という話も聞いたので、持ち込み個体の野生化の可能性はますます高いと考えられた。

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                    宮古島で採集されたヒラタクワガタのオス成虫

 そこで、今回、この島のヒラタクワガタを採集して、DNA分析を行い、このクワガタがいったいどこからやってきたのか突き止めたいと考えた。かつて島の博物館に勤めていた地元の昆虫の専門家の方にいろいろとお話を聞いて、採集ポイントを教えてもらい、そこに、完熟(過熟?要するに腐りかけ・・)マンゴーを設置し、夜中に、クワガタが誘引されるのを待って、採集することにした。

 ところが、地元の昆虫専門家とお話ししていて、クワガタムシの野生化以上に、非常に考えさせられる事態がこの島に起こっていることも分かった。かつては亜熱帯の森に覆われていたであろうこの島の天然林の面積は、現在、わずか数パーセントしか残っていないというのである。実際に航空写真を見せてもらって、その緑の乏しさに驚かされた。ほとんどの森は切り出され、サトウキビ畑と市街地に置き換えられているのである。海と空気の美しさに酔いしれていたが、実際の島の生物多様性の危機を目の当たりにして、ショックだった。マンゴーもこの限られた森の中に設置したのである。

 さて、肝心のクワガタムシは、合計で3匹採集できた。9月という時期からみれば決して少なくない数だと思う。つまり、それなりに定着しているものと推察された。ただ、捕まえられたヒラタクワガタはたいへん小さなサイズであった。恐らく、水も乏しく、生息場所となる森林面積もわずかなため、乏しい餌資源の中で生息しているためだと考えられた。宮古島のヒラタクワガタは恐らく島の外から持ち込まれた「外来種」と考えられるが、他の外来種とは異なって、島中に分布を拡大して、隆盛を誇っているという状況ではなく、むしろ、限られた生息域のなかで、細々と生きている、という印象を受けた。

 本土から離れた離島で人が暮らす以上、農業をはじめとした産業は不可欠であり、我々観光客を受け入れるための開発も必要とされる。島の美しさに憧れてやってきた私も、島の自然の変化に加担している一人である。変わりゆく自然環境の中で、必死に生き抜こうとしているヒラタクワガタを見ていると、彼らもまた、人間の都合で連れてこられた犠牲者なのかもしれないと感じずにはいられなかった。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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