エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

COP10フォローアップ・イベント「みんなで進める外来種対策」

2011年01月10日

  10月に名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)は盛況に終わった。焦点となっていた遺伝子資源の利用と利益配分(ABS)に関する国際ルール「名古屋議定書」と、2010年以降の生物多様性保全のための国際目標「愛知ターゲット」が採択され、日本も議長国としての面子を保つことができたとされる。個人的にも、これらの国際的取り決めがまとめられたことは大変意義深いと思うが、一方で、具体的な対策が明確にされていないことなど、多くの課題を含むものであることも否めない。そのへんの難しい話はまた別の機会に譲るとして、今回は、COP10終了後に東京で開催された、外来種関連のサイドイベントの模様を紹介したいと思う。


 

 名古屋のCOP10では、筆者を含む外来種関係の研究者と環境省が共同で、合計3回のサイドイベントを開催した。COP10の議題の中でも外来種問題は重要な位置を占めており、これらのサイドイベントも国内外の関係者から多くの注目を集めて、日本における外来種対策のアピールとして大成功を納めることができた。そこで、このCOP10での成果をとりまとめ、さらに今後の外来種対策について議論を深めるために、フォローアップ・イベントとして、12月17日に国連大学でシンポジウム「みんなで進める外来種対策」を開催した。

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                                                   国連大学の会場風景


 金曜日という平日での開催にも関わらず、定員の100名を超える参加者が集まり、この問題に対する関係者の熱意と関心の高さがうかがえた。内容は、COPで話し合われ、議決されたことを紹介するとともに、現在、日本各地で進められている外来生物防除の事業実態について、各現場の担当者の方から報告してもらうというものであった。


 外来生物の中でも特に有害なものについては、環境省の「外来生物法」で「特定外来生物」に指定され、国内に持ち込むことも飼育することも禁止され、さらに野外に定着したものについては、国が責任を持ってこれを駆除することとなっている。が、実際には国の予算はわずかであり、ほとんどの外来種駆除事業は地方自治体レベル、あるいは研究者・市民団体レベルでカバーしなくてはならない現実がある。


 今回のシンポジウムでも、ほ乳類や両生爬虫類、魚類、昆虫類、植物といった様々な種類の外来種防除にそれぞれ携わっている「現場担当者」の方々から、現状報告がなされたのであるが、いずれも苦労と困難を伴った「外来種との闘い」であることが浮き彫りとなった。特に問題なのが、駆除がある程度うまくいったからといって駆除の手を緩めるとあっという間に再び外来種の密度が上がってしまうということ。どんな生き物でも、低密度になると見つけにくくなるし、罠による捕獲や除草のような抜き取りもやりにくくなる。いくら罠をしかけても対象となる外来種がかからなければ、次第に防除に対する意識も薄らいでしまう。すると油断や諦めが生じて、外来種の復活を許すこととなる。
 

 考えてみれば、家の中のゴキブリだって、いくら駆除をしてもそう簡単にいなくなることはない。いったん在来の生態系に入り込み、定着を果たした外来種の駆除は極めて困難な作業であり、ひたすら辛抱強く続けなくてはならない苦行でもある。従って、水際対策が、今後外来種をこれ以上増やさないためにも、一番重要な課題といえる。すなわち、輸入資材や物品の検疫を強化し、有害な動植物の持ち込みを徹底的に排除する必要がある。

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名古屋COP10のサイドイベントで披露した紙芝居「マングースものがたり」が今回のシンポジウムでも
外来種問題の教材として紹介された。この紙芝居のセットは環境省から各地に配布できるよう準備中。

 しかし、現実の日本を取り巻く状況は、そうした必要性をむしろ否定する方向に向かっている。グローバリゼーションといわれる国際経済の自由化の巨大な潮流が、日本の検疫体制を強化するどころか、緩和に向かわせているのである。最近、TPPという国際協定を日本が受け入れるか否かで政府が悩んでいる、というニュースを見聞きした方が少なからずいらっしゃるかと思う。これは「環太平洋戦略的経済連携協定(Trans Pacific Partnership)」の略称だが、アメリカ、日本、中国、東南アジア諸国、オセアニア諸国などの環太平洋地域の国々の間で自由貿易圏を作るという構想である。TPPが実現すれば、貿易物品に一切の関税がかからず、外国産の製品を安く購入することができるようになる。日本産製品も当然、輸出がしやすくなる。一方で格安の外国産農産物も大量に輸入され、日本の農業が圧迫されると同時に、外来種が侵入して来るチャンスも増大するであろうと考えられる。
 

 世界の国境線という敷居は、今後もますます低くなり、人とモノの移動はさらに活発になっていくであろう。生物多様性条約では、外来種問題に対して国際的な取組みの必要性を訴えている。しかし、その一方で、生態系のみならず経済、社会、文化までもがグローバリゼーション・スタンダードという画一化の方向へ押し流されている現実がある。


 いずれ何年もの歳月が過ぎれば、アライグマやマングースやオオクチバスも、外来種であることすら忘れ去られてしまう日が来るかもしれない。生き物たちとの接点が薄らぐ昨今、生物の固有性とその価値について理解を深める場所や機会も少なくなっている。日本には本来、どんな生物が棲んでいたのか、それを少なくとも記憶に留めている筆者を含めた現在世代が、次の世代にどんな生物多様性を引き継ぐのか、その課題と責任はあまりに重い。そんなことを考えさせられるシンポジウムであった。

 

なお、このシンポジウムの模様は国連大学のビデオ・ポータルサイトでご覧頂けます。(http://videoportal.unu.edu/event/165

 

 
 

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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