エコらむ

【いろんないきものの話 五箇公一】

クワガタ好きの日本人

2010年03月11日

前回のコラムで、クワガタムシの話題を取り上げ、その中で、クワガタムシは特に人気のある昆虫であることを紹介した。実際に、このコラムを読んでおられる方の中にも(特に男性は)、一度はクワガタムシやカブトムシなどの甲虫を飼育した経験をお持ちなのではないだろうか?

kuwagatazuki3.jpg                                        ヒラタクワガタのコンピュータグラフィクス(筆者作)


 ここ最近は、少し熱が冷めた感はあるが、数年前まで外国産クワガタムシの飼育が大ブームとなり、年間100万匹を超える生きた個体が東南アジアや中南米、オーストラリアなどから輸入されていた。ムシキングなるカードゲームまで登場して、外国産クワガタムシのブームは子供から大人まで幅広い世代を巻き込んだ。

 我々日本人の多くにとって、この当時の加熱ぶりは異常に思えるとしても、クワガタムシに夢中になる気持ちはなんとなく理解できる。女性は別にしても、いや女性の方も含めて、日本人でクワガタムシが嫌いだという人は珍しいのではないだろうか?そう、クワガタムシは間違いなく昆虫の王者であり、皆の人気者なのだ!
 ところで日本でのこのクワガタムシ飼育ブームは、海外のメディアで大変珍しい現象として紹介されていた。あの一流科学雑誌Scienceもこのブームを記事にしたくらいで、取材を受けた筆者は、このブームがそんなに珍しいことなのか、とむしろ不思議に思った。
 実は、筆者自身もクワガタムシの研究をしていて、外国産クワガタムシの大量輸入が生態系に悪影響を与えるのではないか、という研究発表をいろいろな国際学会で発表してきたが、どこでもまず出てくる質問が「なぜ、日本人はクワガタムシなんか飼うのか?」。飼育という言葉を聞いた中国の人には「日本人は、クワガタムシを食べたいのか?」とまで言われる始末。本当はシリアスな環境問題の発表のはずが、いつも笑いが絶えない発表に終わる。。。そんなにクワガタムシをペットにすることがおかしいことなのか?
 そこで国際学会や国際会議に出席するたびに色々な国の参加者の方からアンケートをとってみた。「日本人はクワガタムシが大好きで家の中でペットにするくらいです。あなたの国ではこういう習慣はありますか?」すると、驚くべきことに返ってきた答えは、ほぼすべて、「No!日本人の習慣は理解不能」というものだった。特に驚いたのは、隣国の中国や韓国にすら、クワガタムシを飼育するという風習が存在せず、むしろ忌み嫌っているほどであったことだ。

kuwagatazuki1.jpg kuwagatazuki2.jpg
夏休みの国立環境研究所一般公開にてクワガタの展示に集まる来場者


 実は、このクワガタ好きは、日本人独特のもので、他の国ではクワガタムシをペットとして飼育するという習慣はまったくと言っていいほどないのである。もちろん、標本のコレクターはそれなりに各国に存在する。しかし、そういうコレクターたちの関心はクワガタムシの、特に雄成虫の形の面白さに集中しているのであって、成虫とは似ても似つかぬただの芋虫である幼虫をわざわざ家の中で飼う、ということにはまったく関心がない。
 考えてみると、日本におけるこうした小動物の飼育という習慣は、クワガタムシに限ったことではない。鈴虫を飼育してその音色を楽しんだり、金魚鉢に金魚を入れて楽しんだり、盆栽として樹木をコンパクトな形で末永く楽しんだり。。。この独特の飼育芸は、ここ日本という国に特有の文化なのである。これもまた、日本という国の固有性と言えるのであろう。

 では、なぜ日本人だけがクワガタムシが好きになったのか?なぜこの国に飼育芸が発達したのか?その理由については次回に解説してみたい。

プロフィール

五箇公一(ごか・こういち):国立環境研究所 主席研究員

1965年富山県生まれ。1988年京都大学農学部卒業、1990年京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了、1990年宇部興産株式会社農薬研究部、1996年京都大学博士号(論文博士)取得(農学)1996年国立環境研究所、現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様性』、『リスク学事典』(共著)、『ダニの生物学』(共著)、『外来種ハンドブック』(共著)、『生態学からみた野生生物の保護と法律』(共著)、『環境科学 人間と地球の調和をめざして』(共著)、『生態学入門』(共著)、『いきものがたり』(共著)など。専門はダニ学、生態学、集団遺伝学。

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