エコらむ

【クリチバの奇跡に学ぶ 中村ひとし】

クリチバ市民の環境意識改革とまちづくり

2009年10月23日

  10月4日(日)に放送されたNHK衛星放送の「地球アゴラ」をご覧になった方も多くおられると思います。テーマは、世界の一般市民が地球温暖化についてどのような対応をしているか?でした。私も出演しましたが、クリチバ市での取材で23人にインタビューしたところ、20人が何らかの形で自分の生活の中で温暖化対策を自主的に行っていました。一般市民の環境に対する意識は、インド、イタリアやアフリカの国に比べて抜群に高かったのです。

街の撮影でも、走っている自動車の数が少なく、取材班が驚いたほどでした。自動車所有数はブラジル一で1.8人に1台であるにもかかわらず、人口の70%がバスを利用しているからです。日本の方々には信じられないかもしれませんが、クリチバでは、バスは時間通りに来て、時間通りに目的地に着きます。また、とても便利で速く快適で、料金も安く、1枚のキップで乗り換えができ、市内のどこへでも行けます。運行間隔も短く、2〜5分待つと、次のバスが来ます。ラッシュ時には、路線によっては30秒ごとに来ます。世界の都市で落第点を取ったバス交通が、クリチバでは地下鉄以上です。ゆえに、多くのマイカー族が車を自宅に置いて、バスを利用します。温暖化防止対策です。
 では、どのようにして、クリチバ市民が環境についての正しい知識を持つようになったのでしょう。
 
1.人を大切にするまちづくりは、環境への意識も変える
 このシリーズのはじめに記しましたが、クリチバ市のまちづくりは、人を大切にするまちづくりで、それが都市計画の根本にあります。人を大切にすることは、すなわち環境を大切にする、地球にやさしいまちづくりでもあります。だから、クリチバ市全体が環境教育の場でもあります。
一般市民の毎日の生活が、環境を大切にするのが当たり前で、再生可能ごみは家庭で仕分けし、車の使用を少なくしています。樹木、緑を大切にするのが、クリチバ市民の常識にまでなっています。このまちでは、他の世界の都市と違って、アスファルト道路を通すためにそこにある樹木を伐採するのではなく、樹木を切らないためにアスファルト道路を迂回させます。あるいは、アスファルト道路を狭くして、人のための道路公園をつくるまちです。
 
2.環境教育の徹底
都市に住む子どもたちは、やはり、都市とは何か、どうあるべきか、ということを知らなければなりません。そこで、小学校では、すべての教科を通して環境教育がなされ、先生方も一定期間ごとに講習を受けます。
 また、環境市民大学では、すべての市民が環境についての知識を持てるように工夫されており、ママさん講座をはじめ、タクシーの運転手、先生方や企業家まで参加できるような講座が用意されています。
 しかし、私が驚いたのは、全市民が再生可能ごみを自宅で仕分けして出すことを実践するようになって、市民全員がそれを誇りに思うようになり、市の政策に体を使って参加しているという自負を持ち始め、いわゆる環境市民が増えたことです。毎日、再生可能ごみを自分で自宅で仕分ける人は、河川の水を汚染しません。あるいは、スモッグに敏感になります。また、アマゾンの森林伐採にただ反対を唱えていた人も、自分の日常生活の中から改善する方向になり、自分が環境的に被害者という意識から、自分も加害者ではないのかという意識を持ち始め、それからは、自分の毎日の生活の中で、環境的に正しい生活を探す態度に変わっていきました。
 
3.スラムの中でも環境意識
スラム(写真右上)の中は、それこそ環境的にはひどいところで、下水、ごみは、子どもの命を奪っていました。そして、この人たちこそ、環境的に正しい意識を持たなければ、それこそ、ますますひどい生活になり、唯一の権利である健康的な生活を営むことを放棄し、政府が下水、ごみ処理をしないからという不平を並べることになり、一向に生活はよくなりません。
 クリチバ市では、既に紹介したように、様々な環境教育プログラムをスラム内で実践し(写真右中)、意識向上に成功しました。それらは、ごみ買いプログラム、緑の交換、環境寺子屋などで、今では、スラムの住民も環境市民です。

7kaizengo.JPGのサムネール画像

 そして、その前向きな環境市民意識が市当局の取り組みと相まって、多くの地区でスラムが都市計画法の特別社会住宅地区(写真右下)に指定され、一般的な住宅地へと変わっていきつつあります。それも自分たちの手で。

 

 これこそ、まちづくりへの直接参加で、不法侵入家族が、今では住宅を持つクリチバ市民になっています。
 そして、アンケートでは、クリチバ市民の95%が、自分の住むクリチバ市を愛すると断言しています。この数字は、20年も続いているのです。

 

プロフィール

中村矗(なかむら・ひとし) : ブラジル・クリチバ市 元環境局長

1970年農業移住者として、両親の反対を押し切って、ブラジルへ渡る。その後、クリチバ市長だったジャイメ・レルネル氏に認められ、1989年にクリチバ市環境局長に、1995年には、パラナ州環境局長に抜擢され、その間、ジャイメ氏と人間都市クリチバの都市づくりに参加、様々なプロジェクトを発表し、クリチバ市を環境都市として世界的に有名にする。

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