アラスカに暮らす

夢を追う若者たち 〜アラスカに暮らす(90)〜

2013年01月28日

アラスカに暮らす(90)

 近所に住むスイス人の犬ぞり使い、スベンの家で宴会があった。

 「どうにか犬ぞりで暮らせるようにはなったよ」

 だが、季節労働ともいえる犬ぞりツアーだけでは、まだ厳しいという。

 「でさ、1軒の宿を買ったんだ。だから、この家を売ることにしたよ」

 一度は大自然での暮らしを選んだ彼だが、安定収入を求めて、フェアバンクスでの街暮らしを選んだこともうなずける。

 宴会には見慣れぬカップルが同席していた。ディークとロレイン、近所に越してきたばかりの、ほやほやの新婚さんだ。ロレインはなんとフランスからやってきた。「私たち、明日から新婚旅行へ行くの。故郷のフランスを皮切りに、イタリア、スペイン、英国そして南米。足かけ6…の旅よ」

 「6日でそんなに移動を?」

 「いいえ、6週間よ」

 アラスカの自然にも負けないくらいスケールの大きな新婚旅行だ。さすがにこれには皆が驚いた。

 「まき作りや水くみ、すべてを自力でやらなきゃいけない暮らしに挑戦したいんだ。それに、犬ぞりを始めるにはここが1番の場所だと感じたんだ」

 オハイオ州出身の20代の新郎が、この土地を新生活の場として選んだ理由を熱っぽく語った。

 犬ぞりだけで生活していくのは簡単なことではない。犬を養う経済的負担から、犬たちを手放さざるを得なくなることも珍しいことではない。夢を追い、その夢半ばで去るものもあれば、さらなる夢の実現のために新天地を目指すものもいる。歩むべき道をきっと誰もが模索しながら、それでも時は季節の移ろいのごとく淡々と過ぎていく。

 スベンの手伝いをしている青年ステファンが奏でる、異国情緒にあふれたギターの旋律が響く。窓の外では季節外れの雨が降りだしていた。

ステファンが故郷スイスの曲をつま弾く。夢を抱いた若者たちが歌い、そして語り合う=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の友人宅でステファンが故郷スイスの曲をつま弾く。夢を抱いた若者たちが歌い、そして語り合う=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の友人宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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