アラスカに暮らす

宴愛した兄イに「献杯」 〜アラスカに暮らす(88)〜

2013年01月14日

アラスカに暮らす(88)

 寒い冬です−。

 年末、日本からそんなメールが何通か届いた。アラスカ内陸は、それまでの厳しい寒波がうそのように緩み、12月下旬には、私の住む山小屋でも気温が0度前後まで上がる日さえあった。

 1週間で30度も上がったおかげで、暖を取るために焚(た)くまきの量が減って助かるものの、こう極端だと付き合わされる方も楽じゃあない。この感覚は、部屋の中が常に快適な温度に保たれていた街暮らしのころには、想像もつかなかったことだ。

 寒さが緩むとガイドの仕事には助かる。凍った湖での穴釣りで、釣魚をから揚げにする際、わたを取るときなどいつも指がちぎれるほどの冷たさなのだが、これなら苦もなく料理ができる。まきストーブで暖められたオーロラ観察小屋の中は、汗ばむほどだ。

 東京の友人から悲報が届いたのは、ガイドの仕事が多忙を極めていたまさにそんな時だった。キャンプ仲間の先輩が、闘病むなしくこの世を去ったと−。

 その夜、午前3時半に仕事を終えると、部屋の隅で冷やしておいた酒の封を切り、しんと静まり返った山小屋の中で1人杯を傾けた。「献杯」。兄イとして慕われ、宴(うたげ)をこよなく愛した心優しき先輩をしのんで、そう心の中で唱えた。

 東京の酒場で夜ごと献杯をささげているという仲間たちのことを思い、続けて酒をあおる。

 「俺もそのうち、マキエイのとこ行ってオーロラ見ながら飲みたいねぇ」

 いつかある浜で、焚き火を囲んで酒を飲みながら言った兄イの言葉を思い出す。そういえば、今晩のオーロラはここ最近では1番きれいだった−。

 つらつらと1時間ばかり飲んでいたろうか。握り締めていた酒瓶がいつの間にか空になっていた。

その夜、月に照らされた星空のキャンバスにオーロラという光の絵の具がほとばしった=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅でその夜、月に照らされた星空のキャンバスにオーロラという光の絵の具がほとばしった=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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