アラスカに暮らす

まきストーブの魔法 〜アラスカに暮らす(87)〜

2013年01月07日

アラスカに暮らす(87)

 めらめらぱちぱち、ぱちめらめら−。

 ストーブの中ではゆらゆらと紅(あか)い炎が踊り、その上ではやかんがちんちん鳴っている。

 極北アラスカの冬は、雪の白と夜の黒に抱かれたモノクロームの季節。炎はその季節に鮮烈な色彩を与える。一辺がせいぜい60センチ四方の鉄製のまきストーブは、生きたままの火を閉じ込めることができる魔法の箱だ。

 秋、9月から燃え続け、外が氷点下40度になろうが、電気などに一切頼ることもなく、居住空間としての丸太小屋の中を、5月の声が聞こえるまで休まず暖めてくれる。炎を操り、その炎で寒さをしのぐという方法は、人間が北国へその生活圏を広げるために必要不可欠な技であったろう。

 かつて鯨の骨で組んで、土をかぶせた半地下住居に暮らしたアラスカのエスキモーは、アザラシの脂を燃やしたランプで暖もとったという。今でも、アラスカの原野で暮らすために一番大事な仕事のひとつが、まき作りだということも全くうなずける話だ。

 冬至を過ぎてまだ2週間余り。太陽は南の地平線のほんのすぐ上だ。山の北斜面に立っているわが家は、針葉樹の木々の間から届く幾筋かの光がわずかに届くものの、太陽そのものの姿を見ることができるのは、もう少し先のことである。

 それでも長い夜が明けると、昼と呼べる時間帯もやってくる。ほんの4時間ほどのその時は、無条件に心がときめくものだ。その感覚は、長い冬の後にやってくる短い夏の季節を謳歌(おうか)するあの気持ちに、どこか似ていなくもない。

 めらめらぱちぱち、ぱちめらめら−。ストーブの中では今も絶え間なく炎が燃え盛り、音のない季節の確かなリズムが、熱く静かに刻まれ続けている。

昨年完成したオーロラ観察キャビンにも、まきストーブがある。訪れるお客さんに好評である=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で昨年完成したオーロラ観察キャビンにも、まきストーブがある。訪れるお客さんに好評である=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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