アラスカに暮らす

風呂は本当にエライ 〜アラスカに暮らす(86)〜

2012年12月24日

アラスカに暮らす(86)

 ありがたいことに、この連載が始まって2度目の年の瀬を迎えている。年の瀬といえば大掃除。いまだ工事中のわが家は、掃除などしてもさして代わり映えしないが、月初めからの寒波、大雪、さらなる寒波で街への足が遠のいたため、洗濯物がごっそりたまってしまった。そこで洗濯物をごみ出し用のビニール袋5つ分に詰め込んで、街の洗濯店へ行ったのだった。

 最近使う洗濯店には洗濯機が84台、乾燥機が43台もある。大人が丸ごと入ってしまいそうなドラム式洗濯機2台に、息子の寝小便をたっぷり吸った2枚の毛布も一緒に押し込んだ。料金は2台で1400円。1月に3回も使えば1年で上等な洗濯機が買えるが、そこは水のない暮らしの悩みのツボ。

 洗濯といえば、この身にこびり付いた1年分のあかも、きれいさっぱり落としたい気分だ。しかし、シャワーではどこか味気ない。例えば、湯船を想像してみる。

 「よっこらせっ」

 1日の終わり、白い湯気がもうと立つ、その中に身を浸す。

 「はふーっ」

 目をつむって深く息を吐く。心の隅に積もっていたあかが、次第にじわじわ溶け出してきて、湯気と一緒にいつの間にかどこかへ霧散していく。そして、憂さを忘れた心穏やかな自分に不覚にも出会ったりする。

 風呂にはそんな効能があることに、遅まきながら気が付いた。その証拠に、湯船の中で「昨日の夢を追いかけて…」(ちあきなおみ「紅い花」から)などと、つい口ずさんでしまう。しみじみ、あるいは上機嫌で歌う人はいても、「断じて腹の虫が治まらん」などと、怒鳴りだす人はいないだろう。

 ここではなみなみと湯を張った浴槽など夢のまた夢であるが、3年半もの風呂のない暮らしを通じて、風呂は本当に偉いんだなぁとひしと感じる年の瀬である。

洗濯店は街に何軒もあるが、何台もの特大洗濯機を置いているところは限られている=米国アラスカ州フェアバンクス市内で洗濯店は街に何軒もあるが、何台もの特大洗濯機を置いているところは限られている=米国アラスカ州フェアバンクス市内で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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