アラスカに暮らす

ビョウとほえる真冬の風 〜アラスカに暮らす(84)〜

2012年11月26日

アラスカに暮らす(84)

 今秋の日本滞在では、各地の公民館や図書館、プラネタリウムなどで講演会を開き、ラジオの生放送や収録番組に出演。毎年恒例、旅する作家、椎名誠隊長率いる焚(た)き火偏愛的オヤジ集団「怪しい雑魚釣り隊」の釣りキャンプに参加したり、本連載の取材にも出かけたりと、それなりに忙しかった。

 1月半ぶりのフェアバンクスは、真冬の様相に衣替えしていた。空港ターミナルを出ると、氷点下25度の乾ききった寒気が鼻先をかすめ、独特の緊張感がよみがえる。寒さの厳しいアラスカの原野で冬を越すには、覚悟にも似た、それなりの気構えが必要だ。

 深夜、自室で寝袋にくるまっていると、ビョウとほえる風の音で目が覚めた。漆黒の闇の中で、風に蹴倒されそうに大きくかしいでいる森の木々の影が、黒装束のお化けの集団が手招きしているかのように、窓枠の中でうごめいていた。

 「寒さで車が動かないの。助けにきてくれないかしら」。不意の電話が鳴ったのは翌日の夕暮れ時。近所の(といってもわが家から何キロも離れている)プリシラおばちゃんからだ。「車を暖めたらすぐ行くよ」

 30分後に現場に到着すると、自分の車と彼女の小型トラックのバッテリーをケーブルでつないだ。「オッケー! かけてみて」。しばらく沈黙していたエンジンが「ギュギュバォウン」と、豪快なうなり声をあげて動きだす。

 「ふひゃあ。助かったわ」。プリシラの表情に安堵(あんど)の色が浮かんだ。そういえば私も、発電機のガソリンをうっかり切らしてしまったときに、近所で譲ってもらったなぁ。「お互いさまさ。エニタイム(いつでもどうぞ)!」。その夜、窓の外では風に躍るセロハンのように、オーロラが静かに揺れていた。

強風で根元の直径が25センチもある白樺の幹がへし折れていた。まきにするほかなかろう=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で強風で根元の直径が25センチもある白樺の幹がへし折れていた。まきにするほかなかろう=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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