アラスカに暮らす

銃の標的 一時激減 〜アラスカに暮らす(83)〜

2012年11月19日

アラスカに暮らす(83)

 息子と一緒に春の北極圏で、黙々と若草をはむ15頭ほどのジャコウウシを観察した。

 「ヤギさんみたいなこえだね」

 生まれて間もないジャコウウシの子が、めぇーめぇーと鳴くその声に、ウシとはつくものの、彼らがヤギやヒツジに近い動物であることを思い出す。

 「マンモスがいた時代から、生き続けているんだよ」

 「それって、ずっとずうっとおおむかし?」

 普段は穏やかな性格だが、額の中心を基点に、両頬にそって広がりながら前方に反る角は、どこかたけだけしい。振り袖の襟元に巻かれている、ふわふわなショールを連想させる肩を覆う豊かな毛の固まりが、風で逆立つときなどは異様な迫力がある。地面に向かって長く真っすぐ伸びるその毛並みから、イヌピアック・エスキモーの人々が、「ヒゲのような皮膚の動物」と呼んだのもうなずける。

 氷河期を生き抜いたジャコウウシだが、アラスカでの生息数は、19世紀後半には激減していた。原因は、北極海沿岸に現れた捕鯨船の乗組員や、密猟者たちによる乱獲であった。天敵である俊足のオオカミから子を守るため、あえて逃げることはしない。群れで円陣を組んで、その中に子をかくまう本来の習性があだとなり、銃を持ったハンターたちの格好の標的になってしまったのだ。現在、アラスカでの生息数が4000頭近くに上るのは、1930年にグリーンランドから移入した34頭のジャコウウシによる繁殖が成功し、野生に放された個体群が子孫を増やした成果だ。

 ところで、氷河期のアラスカ内陸の一部は、比較的温暖なステップ気候だったようで、マンモスやジャコウウシの他、ライオンやサーベルタイガー、ラクダや馬までもいたというから驚きだ。

私がガイドする北極圏ツアーでは、ジャコウウシはシロクマと並んで人気が高い=米国アラスカ州・北極圏ノーススロープで私がガイドする北極圏ツアーでは、ジャコウウシはシロクマと並んで人気が高い=米国アラスカ州・北極圏ノーススロープで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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