アラスカに暮らす

氷河期の生き残り 〜アラスカに暮らす(82)〜

2012年11月05日

アラスカに暮らす(82)

 最初にアラスカを旅したのは1997年の夏だった。6年勤めた出版社を辞め、夜ごと酒をあおって腐っていた。そんな時、米国アラスカでのサーモン釣りをこよなく愛した作家、開高健が残した「清らかな狂熱」という言葉と偶然出合った。

 狂おしいほどの熱、しかし、あくまでも清らかな…。心にパッと光が差し込んだ気がした。折り畳み式カヤックとキャンプ道具をザックに詰め込んで、8月の日本を飛び出した。

 フェアバンクス空港に着くと、針葉樹の爽やかな匂いが、アラスカに着いた実感を運んできた。さらに1時間飛んで北極圏の小さな村へ。村で小型水上機をチャーターして、ブルックス山脈を流れるある川の上流域までもう1時間。森林限界を越え、果てしなく続くツンドラの中の湖に、機は一片の木の葉のように着水した。

 「2週間後に迎えに来る。グッドラック!」。峰々の岩肌に甲高く反響する水上機の発動機音が遠ざかると、辺りは底なしの静寂に包まれた。極地では太陽が陰るとたちまち気温が下がる。吐く息の白さに、8月の北極圏はすでに秋であることを悟る。

 湖から200メートル離れた川岸まで荷を運び、テントを立てた。ふちに向かってさおを振ると、立て続けにカワヒメマスが2匹釣れた。岸に転がる柳の細い幹を集めて火をおこす。

 すると、テントの後ろから何かがやってきた。大岩のような黒い塊が、かん木の茂みの中をゆっくりと歩いている。

 「グリズリー?」

 ひやっとしたが、よく見ると、ハの字形の角を持った動物だ。それはアラスカで初めて見る大型野生動物、ジャコウウシの姿だった。あいつらマンモスと同じ時代にもいたんだよな−。心は氷河期へと一気にタイムスリップした。

普段は穏やかなジャコウウシも、繁殖期の雄同士は時に激しく角突きをする=米国アラスカ州、北極圏のノーススロープで普段は穏やかなジャコウウシも、繁殖期の雄同士は時に激しく角突きをする=米国アラスカ州、北極圏のノーススロープで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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