アラスカに暮らす

“ディナーベル”を鳴らせ 〜アラスカに暮らす(81)〜

2012年10月29日

アラスカに暮らす(81)

 「森の中で真新しいクマのフンを見つけたんだが、何が入ってたと思う」

 「何だい?」

 「指輪さ。ガハハッ」

 これはアラスカン・ジョークの1つ。指輪のほかに、腕時計やピアスが登場することもある。

 クマに遭ったらどうするか。それは切実な問題だ。クロクマに襲われたら立ち向かえと、ものの本に書いてあるが、より大きなグリズリーやシロクマではそうはいくまい。背を向けて逃げるのはもってのほか。昔、知床半島で10メートルほどの距離でヒグマと遭遇したことがあった。恐怖に負けじと目をにらみ続けていたら、クマはやぶへと去った。

 クマと鉢合わせしないように、こちらの存在を知らせるという方法もある。日本では鈴を鳴らせということになっている。さて、この鈴、アラスカではなんと呼ばれているかご存じだろうか。

 ずばり“ディナーベル”。チリン、チリン「ご飯ですよー」。クマにしてみれば、食べ物が音を立てながらやってきてくれる、つまりごちそうの時間というわけだ。半分ジョークだが、半分はあながちウソとも言い切れない気もする。

 ゆえにアラスカで原野に入る者は銃を忘れない。銃の所持が許されているお国柄もあろうが、万が一の時はやはり飛び道具頼みというわけだ。私自身、ガイドで原野に入る時は銃を携行する。

 「クマから身を守る道具を持っていますか」。以前、ガイド登録をする際にそう聞かれた。「ショットガンを」。「うむ、それならよろしい」。銃に関して言えばアラスカの原野では必需品なのだ。家の周囲にすむクマたちは冬眠したころだろう。今夏も無事仕事を終えたことにほっと胸をなで下ろす。先月、北極海で遭ったシロクマの親子は今ごろどうしているだろうか。

北極海に面した砂浜の上で、シロクマ(北極グマ)の親子が気持ちよさそうに昼寝をしていた=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区で北極海に面した砂浜の上で、シロクマ(北極グマ)の親子が気持ちよさそうに昼寝をしていた=米国アラスカ州、北極圏野生生物保護区で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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