アラスカに暮らす

原油試掘へ 変化の波 〜アラスカに暮らす(78)〜

2012年10月01日

アラスカに暮らす(78)

 「おおさか」。店の看板には、ひらがなでそう記されている。店のすぐ後ろでは、鉛色の波が岸にぶつかっては砕けている。北極海に面した米国最北端の町バロー。その海岸沿いにこの店はある。

 「あれまぁ、久しぶりじゃないのさ」。秋深まる9月、暖房が効いた店内に入ると、リズさんが懐かしそうに厨房(ちゅうぼう)から出てきた。板前の旦那さんが、はにかみながら椅子を勧めてくれる。

 韓国人ご夫妻が作るのは、すしやうどんなどの日本料理。店名は先代の韓国人オーナーから引き継いだのを変えずに掲げている。リズさんは緑茶を持ってくると、隣に座って話しだした。「不景気になって2年、もう店を閉めようと思っていたの」。そういえば、夕食時だというのに以前より静かだ。「でも、あと5年は頑張るわ。この町で原油の試験掘削が始まるの。労働者も来始めてる。彼らはいいお客さんよ」

 カナダへと続く北極海沿岸には、膨大な量の原油が眠っているという。バローの東約350キロにあるプルドー湾油田は、アラスカ州の財政を支える重要産業だ。ここを訪ねる者は、地平線が続くツンドラの果てに、こつぜんと姿を現す原油施設群が作り出す、無機質な景観にある種の戸惑いを覚えるだろう。

 車やスノーモービル、電化住宅など、文明の利器を巧みに導入しながらも、伝統的なクジラ漁に根差した暮らしを営む先住民たちが多く暮らす、人口5000人弱のバローも、やがては工業都市へと変貌してゆくのか。

 リズさんお薦め、マグロやサケ、エビなどが巻かれた1本2500円もする巻きずし、サムライロールを食べながら、新たな変化の波が押し寄せようとしているバローの将来を想像した。

食堂を出て、雪降るツンドラを歩いた。1羽のシロフクロウと出合った=米国アラスカ州、バロー郊外で食堂を出て、雪降るツンドラを歩いた。1羽のシロフクロウと出合った=米国アラスカ州、バロー郊外で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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