アラスカに暮らす

ブルーベリーと思い出話 〜アラスカに暮らす(70)〜

2012年07月30日

アラスカに暮らす(70)

 今夏は雨の日ばかりで、「まったくよく降る雨だね」というあいさつが普通になってしまった。日本も九州では大雨続きだというし、北京でも記録的豪雨だとか。これは、北半球全体の傾向なんだろうか。

 鉛色の空の下、晩夏を彩る赤紫色のヤナギランの花だけがひときわきれいだ。満足に青空を見ないままに7月も終わりに近づき、気が付けば、道端に車を止めて低木の密集する野で前かがみになっている人たちの姿を見かけるようになった。傍らにはプラスチックの保存容器やバケツなどを置いている。皆、熟し始めた野生のブルーベリーを摘んでいるのだ。

 僕たちも、近所に住む−とはいっても、わが家から5キロ以上も離れているが−プリシラおばちゃんと夜のブルーベリー摘みに行った。プリシラは近所では最古参の住人の1人。もう、32年この原野で暮らしている。「久しぶりに会えてうれしいわ」。道の途中で落ち合うや否や、彼女はブルーベリー摘みをそっちのけで話し始めた。

 「私がここに住み始めたころは、家までの道なんてなかったから、2キロもあるやぶの中を歩いたり、冬にはスキーやスノーモービルを使ったのよ。あひゃひゃ」。話しながらよく笑うところは、いかにもお人よしな感じだ。「道を造ったのは何年もしてから。真冬に少しずつ森の木を燃やしながらね。それでね…」

 彼女は2時間近く話し続け、僕たちはその話に耳を傾けながら3つの大きな容器をブルーベリーでいっぱいにした。「今夜はとても楽しかったわ。ありがとう」。笑顔で車に乗り込むプリシラの容器を見たら、中は空だった。袖口から涼しい風が忍び込んできた。重そうな雲に挟まれて、夕日がつぶれそうにひずんでいた。

摘んだ実を頬張りながら、容器をブルーベリーで満たしていくのは楽しい作業だ=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅近くの原野で摘んだ実を頬張りながら、容器をブルーベリーで満たしていくのは楽しい作業だ=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅近くの原野で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

地球のいのち、つないでいこう

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ 記事全文へ バックナンバー一覧 記事全文へ 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧 一覧