アラスカに暮らす

真夜中のツンドラ探検 〜アラスカに暮らす(63)〜

2012年05月28日

アラスカに暮らす(63)

 「ねえねえ、今から外に行こうよ」。時計は既に真夜中の12時を回っていた。が、子どもたちの誘いをむげにもできない。「よし、出掛けてみるか」

 アラスカ最北の町、バローに住むエスキモーの友人宅に、家族3人で滞在していたある初夏のことだ。暖房が効いた家から一歩出ると、冷たく湿った風が首筋にまとわりついて、背中がぶるぶるっと震えた。入り口のひさしの上では、ユキホオジロがちょこちょこと小刻みに歩き、どこかへ飛んでいく。

 息子と小学校上級生の女の子ランディー、彼女の友人と僕の4人で町を囲むように広がるツンドラを歩いた。「この花の蜜吸ってごらん」。綿毛をまとって地面の上で低く咲いているケブカシオガマの赤紫色の花びらをランディーが摘んで、息子に手渡した。「何となく甘いね!」。ランディーをまねて息子も花びらを摘みだす。

 すると、ランディーが何かを追いかけ始めた。わっと走り出したかと思うと地面にしゃがみ込み、すっくと立ち上がって見せたのは小動物レミング。手袋をしたランディーの両手の間から、目をまん丸にして顔をのぞかせていた。

 「こいつ、かみつくかな」。息子が脇からちょっかいを出す。「レミングはシロフクロウの大好物よ」。女の子の言葉にレミングはどこかおびえた様子だ。そこへ、シロフクロウが遠巻きに低空飛行しながら視線をこちらに投げていく。

 白夜を象徴するかのように、真夜中の太陽が大地に落とす4人の長い影がどこまでも続いていた。吐く息が白いことに気づいた。北極海に面したこの場所は、時に霧を伴って海から吹く風で大地が冷やされ、真夏でもツンドラが緑に染まることはない。

 ヤナギは地をはうように枝葉を伸ばし、太陽の熱がかろうじて蓄えられる地表にのみ、生息の場を定めている。過酷とも思える環境の中、何千年も暮らし続けてきた人々のことを思った。「ここでは7月初旬に春が来て、7月中旬に夏になる。そして、7月下旬にはもう秋なのさ」。バローで聞いた言葉だ。

ランディー(左)とその友人。手前にはレミングが気になる息子=アラスカ州バロー郊外のツンドラでランディー(左)とその友人。手前にはレミングが気になる息子=アラスカ州バロー郊外のツンドラで

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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