アラスカに暮らす

鮮やかな小鳥に遭遇 〜アラスカに暮らす(62)〜

2012年05月21日

アラスカに暮らす(62)

 雪がほとんどなくなったとはいえ、森は常緑針葉樹のトウヒを除けば、昨秋以来、葉を落としたままのシラカバやヤナギ、ハンノキ、そして枯れた下草がつくりだすセピア色の写真のような景色になっている。

 その朝も、ストーブで沸かした井戸水でコーヒーを入れ、マグカップを片手に1人、森を散歩していた。ひんやりと澄んでよどみのない空気が木々の間を満たし、その中に香ばしいコーヒーの湯気が溶け込んでいくすがすがしい朝だった。

 「おや!」。色彩の乏しい森のどこかから、いつもとは違う気配を感じた。その方向に首を傾けると、鮮やかな紅色の一点を視線がとらえた。樹高20メートルはありそうな、ひときわ高いトウヒの中ほどで、濃緑色の葉に囲まれながら、顔をのぞかせていたのは、わが家では初めて目にするギンザンマシコのかれんな姿であった。

 ギンザンマシコは春先から夏の間にかけて、北極圏の森林限界付近までやってくる体長20センチほどの小鳥。雌は頭部などが山吹色だが、雄は頭部や背、胸の桃紅色が鮮やかだ。日本では北海道に生息していると、手元にある真木広造氏の著書「日本の野鳥590」に記されている。

 私のツアーの熱心なお客さんで大の野鳥好きの方がいるが、バードウオッチャーの間では、垂涎(すいぜん)の的だとも聞いた。北極圏では過去に何度か、トウヒの実をついばんでいる場面にお目にかかったこともあった。

 家のすぐそばで出合えるとはなんと幸運なことだろう。「そうそう、昨年の今ごろは英語名で『白い羽を持つ』というマシコの仲間も、つがいでやってきたっけ」。今、森では、濃灰色の体に薄紅色のくちばしが映えるユキヒメドリが飛び交い、昼となく夜となく美しい声でさえずり合っている。

 シラカバは、この歌を聴きながら、透き通るような黄緑色の葉を日に日に増していく季節を迎えている。昨夜午前1時すぎに表に出てみると、星明かりは3つを数えるのみだった。内陸アラスカの短い夏がもうすぐそこまで来ている。

早起きすると、普段お目にかかれないものに遭遇できる。ギンザンマシコもその一つ=北極圏のブルックス山脈で早起きすると、普段お目にかかれないものに遭遇できる。ギンザンマシコもその1つ=北極圏のブルックス山脈で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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