アラスカに暮らす

金探し続けるロマン 〜アラスカに暮らす(59)〜

2012年04月23日

アラスカに暮らす(59)

 「誰かと思えば、君かー! よく来たなあ」。極北に春の訪れを知らせる鳥、ユキホオジロが群れて飛び交う季節。北極圏、ブルックス山脈の中でたった一人、自給自足の暮らしを営む友人トッドに半年ぶりに会いに行った。

 1カ月前、人づてに届いた手紙には、スノーモービルが故障し、まきの原木や仕留めた獲物の肉、水を運ぶなど、何をするにも苦労しているとしたためられていた。そんな彼のために、新しいそりと段ボール箱5つ分の食料を差し入れたのだ。

 が、久しぶりに目にする新鮮なバナナやリンゴ、ジャガイモや玉ネギ、それにドーナツやチョコレートはそっちのけで、彼が迷わず手にしたのは缶ビールだった。「ぷはあ、やっぱうまいなあ! 天気はいいし、今日は最高だ」。次の瞬間、缶はもう空になっていた。

 「実は、昨日カリブーがたくさん捕れたんだ。帰りに持っていくといい」「いつもありがとう」「ところで見せたいものがある。来いよ」。母屋へ行くと、その横にあるやぐらに案内された。森から切った木で造ったやぐらの下には、丸太で組まれた縦1メートル、横1.3メートル、深さ約5メートルの穴があった。マイニング・シャフトと呼ばれる、金を探すための立て坑である。

 「わっ、深くなったね」。5年も前から彼はこの穴を自力で掘り続けている。夏は地下水に没してしまうため、水が凍って地下水がより深い所に引く11月から4月いっぱいしか作業ができない。掘り出した土砂の中には、鉄分の含有を示す赤さび色が見えた。これは金を探すためのよい兆候だそうだ。

 アラスカ北極圏は、今から100年ちょっと前、米国で一番北のゴールドラッシュが始まった地。「あと20メートルは掘るさ」「それにはどのくらいかかるの?」「もう4、5年ってところかな」。見つかる保証のない金探しに、10年もの歳月をかけて穴を掘るという男の横顔はどこか誇らしげにも見えた。

掘りかけのマイニング・シャフトの底で、金探しの夢を語る友人トッド=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈で掘りかけのマイニング・シャフトの底で、金探しの夢を語る友人トッド=米国アラスカ州、北極圏のブルックス山脈で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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