アラスカに暮らす

クマの巣穴に潜る 〜アラスカに暮らす(58)〜

2012年04月16日

アラスカに暮らす(58)

 「パパ、中は意外と広いよ!」。その穴を見つけたのは2年前。オーロラ観測用のキャビンを建てる場所を探して、森の中を歩いているときだった。

 自宅の周囲は果てしなく続くトウヒの森。穴を見つけたのは、山の斜面に沿って、そこだけシラカバが生えている横幅約10メートル、縦約20メートルの区域だ。穴は、大海原に浮かぶ孤島のようなその場所の中ほどにあった。

 穴の横の盛り上がった小山は植物に覆われている。きっと穴が掘られた際にかき出された土砂に違いなかった。「この中なら寝られるね」。さて、穴を掘った主は誰であろう? ここは、人の手が入ったことのないアラスカの原野。そう、グリズリーかアメリカクロクマの仕業である。いずれかが冬を越すための巣穴を掘ったのだ。

 わが家の森はシラカバとトウヒが生育する場所が線を引いたように明確に分かれている。その秘密は地面の中に隠されているようだ。シラカバの森は落ち葉の積もった地面にバラの仲間、ハンノキなどの灌木(かんぼく)類が繁茂していて、スコップで掘り返すと粘土質の細かい砂粒が現れる。

 トウヒの森の地面にはコケモモ、ブルーベリーやサーモンベリーなどベリー類が、表土を覆う約30センチの厚さのコケ類に交じって繁殖する。その下は、真夏でもコンクリートのようにカチカチに凍った永久凍土だ。

 クマも巣穴に適した場所をちゃんと心得ているのだろう。巣穴の大きさを測ってみると、入り口の直径は約60センチ。中は最大で高さ70センチ、幅65センチ、奥行き1.2メートル。積雪1メートルを超える雪が入り口をふさぎ、断熱材の役割を果たしてくれるので、真冬でも寝心地がいいことだろう。

 人の住家のすぐ近くにクマの巣穴があるというのはいかにもアラスカらしい。今、この辺りでは、クマが冬眠から覚める季節。いつかまた、この穴にクマがやってくることがあるだろうかと想像すると、ドキドキしたりもする。

クマの巣穴をふさいでいた深さ1メートルの雪をスコップでかき出した息子=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅でクマの巣穴をふさいでいた深さ1メートルの雪をスコップでかき出した息子=米国アラスカ州フェアバンクス郊外の自宅で

プロフィール

河内牧栄(かわうち・まきえい):ネーチャーガイド兼写真家

1966年、岐阜県各務原市生まれ。日本大芸術学部卒業後、大手出版社に勤務。退社後、30代で一人旅をしたアラスカの大自然に魅せられ、2003年に移住した。ネーチャーガイド兼写真家。アラスカ州フェアバンクスに妻(48)と長男(7)の3人暮らし。

ホームページ:「ネイチャーイメージ」

※「アラスカに暮らす」は中日新聞朝刊に毎週月曜日に連載されています。

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